今はもうない/森博嗣
作品のネタバレ有。
嵐の山荘で起きた2つの密室殺人事件!
隣り合った部屋で死んだ美人姉妹。40歳の私は、西之園嬢と推理する。
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。
シリーズ第8作目。
これはもうすがすがしくシリーズ読者向けの一作。シリーズ読者でなかったら全く面白くないと言ってもいい。なぜならこの作品のメインの謎はシリーズの読者だからこそ騙されるものだからだ。読者でなければ「へえ」程度なので、「S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い」という説明に惹かれても、この作品は絶対に単体読みをしてはいけない。数作読んでから読むべし。
というわけで大きく分けてシリーズ読者向けの謎と密室の謎の2つがある。でも密室の謎自体は引っ張る割に「ふーん」というか、これメインで読むとしたらあんまり面白さはない。
この作品はシリーズ読者向けの謎こそめちゃくちゃ面白い。S&Mシリーズを読んでいて唯一答えが明かされる前にわかった謎だ。途中で気づけて嬉しかったことをよく覚えている。
シリーズ後半になるにつれどんどんキャラ小説としての面白さの方が強くなっていくのだが、これはその典型のような作品だったな。キャラクターの魅力が炸裂していてとても良い。
犀川先生と萌絵の休日のドライブというのもすごく良いし、その最中別荘で起こった事件を萌絵が犀川先生に聞かせるという形で推理が展開していく構成も好きだ。
前作夏のレプリカが切ない結末なのに対して、こちらはかなり明るく爽やかな読後感が残る作品になっていてとても良かった。以下作品の根幹のネタバレをするので改行する。
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実はここに出てくる西之園嬢は萌絵ではなく睦子叔母様であり、この事件は萌絵の叔母様夫妻の馴れ初めであったというのが1番のトリックである。つまり読者は叔母様夫妻の惚気をずっと聞かされていたというオチ。
初読の際の感想が残っていたので読んでみたら、当時のわたしは「下の名前当てと、この西之園嬢犀川先生以外の男相手なのにやけに可愛くない?」というところで西之園嬢≠萌絵であることに気づいたらしい。笹木がプロポーズするあたりで何か変だなぁと思ったような気がする。
あとこの幕間は本編の直後の時間軸ではない(結構年数が経っている)ことは最初から検討がついていたので、そこでトリックの方向性が何となくわかったとも書いてあった。
いやあ初読の感想は残しておくべきだなあ。4年前の自分の感想とても面白かった。夏のレプリカも外伝的な話だったけれど、今はもうないもスピンオフのような話だった。そして当時の自分の感想には「そろそろ犀川先生と萌絵でガッツリ謎解きをする話が読みたい」と書いてあった。次作が楽しみ。
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