「今日は誰にも愛されたかった」木下龍也さんのサイン入りの歌集をゲットした3「感想戦」完

#読書感想文  2022/12/20

そして。感想を言い合う感想戦になります。映画のオーディオコメンタリーのようです。互いの作品を批評します。ここで谷川氏が力量を発揮されるのです。
岡野さんも木下さんも谷川さんの解説に食らいついて行きます。さすがです。

中でも。谷川氏の詩に登場する謎の人物について、木下さんは正体を真面目に考えているようですが、岡野さんはそれを特に問題視せず、谷川氏に至ってはもやどうでも良いとも受け止められるおおらかさです。

それにしてもすごいのは進行係の編集者さんです。谷川氏の意見をなんとかまとめるのですから。剛腕とはこのことですね。

それに、感想戦を読むと曲者の岡野さんのやろうとした真意が聞けて、「ああ。そこまで考えていたんだ」と思わせるところです。奇才による新たな表現への策略は実に周到で狡猾です。褒めてます。

岡野さんの短歌は、この本の作品だけで申し上げると、シュールです。年齢よりもずっと若い感性で、傷ついた心を繊細に感じているような、そんな気がします。私にはチェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」が聞こえてくるようです。

作品に共通するのは自虐的な悲しさ。「誰にも愛されたかった」、というのは、愛されていない、という意味ですものね。愛されたい、と言葉にするくらいの寂しさを感じます。

そして木下さんの短歌。やはりどこか初々しさを感じます。汚れがなく若いということです。岡野さんも木下さんも、大変心が若く、私には瑞々しいのです。

私は詩の勉強会に10年ほど通っています。ほとんどがご老人であり、詩の内容も「親しい人の死」「介護の疲れ」「老母への想い」「平和への祈り」が多いです。

喜怒哀楽の「怒」と「哀」ばかり。そこで私は詩を書く時は「喜」や「楽」をテーマにしています。

主に書いているのは小説です。短歌はただいま勉強中です。

そんな中、岡野さんも木下さんもテーマが若く、感性が鋭い。

私は小説を書く時は、物語の流れも需要ですが、時には出来事の断面図というか、感情をMRIの画像のように書き表したいと思っています。まだ全然できていませんがそっちの方へ向かって歩いているつもりです。

このお二人はそれができているように感じます。岡野さんの短歌は心を切った時の切り口が見えるような、そんな気がします。褒めてます。

木下さんは、切り口というよりも。何か心に大切に隠しているものを読者にちょっと見せてくれるような。そんな秘密めいた匂いがします。褒めているのです。

このような二人の擦れていないお気持ちが、かつて若かった人たちに刺さるのではないでしょうか。

当たり前の感想の上、上から目線的で恐縮ですが、そう思いました。

それにしても、谷川氏がお二人の作品を読んで「高校生だと思った!」と本文にありますが同感です。作品だけ読むと私もそう思います。

最後に。本の裏に解説が書いてありますが、なぜかここだけ横書きです。「…スリルが交わります」とありますが、もしかしてこれイラズラ?

この三人ならありそうで、許せます。なんだ。やっぱり愛されているじゃないですか。


みちふむ

◇◇◇
本「今日は誰にも愛されたかった 谷川俊太郎 岡野大嗣 木下龍也」
ナナクロ社より











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