雑踏の中とワタシの願い
もしかしたら隣をすれ違っていたかもしれない。
もしかしたら、軽く言葉を交わした事があるのかもしれない。
もしかしたら……。
と、アナタの存在に気づいてしまってからは、アナタとワタシの結び目を手繰り寄せて探してしまう。
同じ瞬間に居合わせる奇跡は地球に隕石が落ちるような確率で、しかもワタシとアナタの瞳にお互いが映し出さなければ何も動き出さない。2人の時間を動かす一言を発するキッカケも与えられない。色々な思考がぐるぐると頭の中で渦巻きながら、妙に働く自信に突き動かされるように、流れるように押し寄せる人混みの中からアナタの存在を探してしまう。
『あっ……。』
とたった1人だけが輝いて浮き上がっていた。
『見つけた……』
ようやく見つけたアナタに発した精一杯の言葉がこんな在り来たりな事しか口から溢ぼすことしかできない。こんな自分が情けなくて泣けてくる。この瞬間をどれだけ思い描いてきたというのか。何度も夢の中で見ていたアナタの横顔が今は半径1メートルの距離にいるのに。こんなに近くにいるのにとても遠くて手が伸ばせない。
緊張しているのか?体が強張って上手く動けない。
『……こっちを向いて……。』
と必死に心の中で叫ぶのが精一杯だった。
その瞬間に目が合った衝撃は今でも忘れない。
あれからいくつもの季節が流れただろう?
今も朝、目を覚ます度に目の前のアナタの寝顔が愛しくてたまらない。
『愛してるよ』