「レコードの音と癒やしの時間」 伝統は今を生きる vol.08
こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
みなさんは音楽、聴かれますか?
僕は車の中や移動中、スタジオ等でよく聴きます。特に撮影の際には気分を盛り上げるため、音楽は必要不可欠な存在です。
今回は以前に取材した人蔘湯さん(Vol.5参照)を運営されている湊代表に、豊川にある素敵なレコード店「LiE RECORDS(ライレコード)」をご紹介いただいたので、そちらを取材しながら古き良きレコードの魅力について書いていきたいと思います。
レコードの歴史
僕自身、学生時代に音楽をやっていたこともあり、CDやスマホで聞く音楽には慣れていたのですが、レコードは全くの初心者。なので、まずはレコードの歴史について簡単に調べてみました。
レコードの歴史を語る上で忘れてはならない人物がいます。
みなさんご存じ、電球や蓄音機を生み出した発明王トーマス・エジソンです。
彼が1877年に世界で初めて成功させたフォノグラフと呼ばれる円筒形の録音盤を使用した装置から、音を録音・再生するシステムは始まりました。その10年後の1887年にエミール・ベルリナーが現在のレコードシステムの原型となる円盤型の録音版を利用したグラモフォンを発明します。
1920年代に入り、電気蓄音器が実用化されます。その後、真空管の発達やIC等の発明によりレコードシステムは急成長します。
そしてレコード盤の原料がシェラック※からポリ塩化ビニールになることで、長時間録音や繊細な録音が可能に。1950年代半ばからはステレオ盤が実用化されました。
※シェラック=ラックカイガラムシの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質
1980年代にCDが発売されて以降、レコードの生産量は減少していきますが、レトロブームもあって近年は再注目されているようです。
豊川にある LiE RECORDSへ
あいにくの雨の中、久しぶりに豊川稲荷周辺にやってきました。
前にもこちらに書きましたが、豊川は僕の地元。
ただ車でこのあたりを走るのは何年振りか分からないぐらいです。
実家は豊川市なのですが、豊川稲荷周辺には以外と行かなかったりします。
豊川市出身というと「豊川稲荷の近くなんでしょ?」とよく聞かれますが、そんなことはありません。これは豊川市民あるあるといったところでしょうか。
そんなことを考えていたら、目的地のLiE RECORDSさんに到着しました。
結構な雨だったので、外観写真は撮っておりません。ごめんなさい。
お店の外観はガラス張りで明るく清潔感のある印象です。
店内に入ると、無数のレコードが綺麗にケースに陳列されており、お香のいい香りもして何ともおしゃれな雰囲気です。
さっそく、店長の平松章也さんにお話を伺いました。
——お店を始めた理由は?
平松:最初はレコードが好きだったのが一番の理由ですね。
20代前半でレコードの魅力に目覚めて以来、ずっとレコードが好きで、お店を始める前には個人で約3000枚のレコードを持っていました。お店をオープンしてから1年が過ぎてからはレコード文化を後世にも残せるように、ファンを少しずつ増やしていけたらと考えるようになりました。
——LiE RECORDSという店名にはどんな由来があるのでしょう?
平松:Lieは英語で「横たわる」「地下に眠る」「置かれている」「巣」「嘘」など様々な意味があります。このなかのどれというのは実は無くて…(笑)。このお店を続けていくうちに、自分自身もわかってくるんじゃないかと思っています。
——お店のロゴマークもとてもオシャレですね!
平松:縁あって、コーネリアスのCDジャケットデザインも手掛けられているデザイナー北山雅和さんに当店のロゴマークを制作していただきました。とても気に入っていて、このロゴマークを入れたターンテーブルマットも特注で作ったんですよ。
——「レコードの魅力」はどんなところにあると思いますか?
平松:やはりデジタルでは出せない音だと思います。
レコードプレーヤーの針が、レコード盤の溝をなぞることで音が出るのですが、その時の環境によってわずかに音が変わったりしますし、針で盤がすり減ったりするのでデジタルのように無限じゃないのが魅力だと思います。あとA面・B面があるのも何だか人間っぽくていいじゃないですか。
——僕もレコード初心者なのですが、簡単なレコード盤の手入れ方法を教えてください。
平松:専用のクリーナーなどがありますので、そういうものでレコードを拭いてもらえればいいですし、無い場合は毛羽立ちのない柔らかい布で優しく拭けば大丈夫です。注意点としては、あまり素手でレコードの盤面を触らないようにしてください。人間の油などがつくと汚れや破損の原因になりかねません。あと普段は日の当たらない場所で箱に入れて保管し、紫外線や湿気から守ってください。汚れは拭けば落ちますが、カビや反りはどうしようもできないので。それさえ守っていただければ、手入れはとても簡単だと思いますよ。
——レコード店というと、少し敷居が高い印象もあるかと思います。LiE RECORDSはどんな方に来てほしいですか?
平松:そうですね。レコード好きの方はもちろんなんですけど、初心者の方々にもぜひ来ていただきたいです。私はどこかでレコードの扱い方を習ったわけではなく、独学でレコードを学びました。だからこそ、初心者の方にとってどんな機材やレコード盤が適しているかもご提案できます。当店でレコードプレーヤーを購入した方に、おすすめレコードを3枚(レコードは1,000円以下のもの)プレゼントさせていただくサービスも行っています。
——最後に今後の展開について教えてください。
平松:豊橋の人蔘湯さんで毎週金曜日に出張DJをやらせていただいているのですが、前職が介護施設の事務職だったこともあり、老人ホームなどでも出張DJをやってみたいですね。レコードの音を聞いてもらうことでもっとたくさんの人を笑顔にしていきたいと思っています。 デジタル音楽が台頭する中、近年になってアナログレコードもじわじわ人気が復活してきています。デジタルと比べたら手間は掛かりますが、レコードは本当に良いものです。いろんな活動を通じて50年100年先にもレコード文化が残せたら嬉しいですね。
——ありがとうございました!
人生初のレコードプレーヤーを購入!
平松さんから熱いお話を伺ったのちに、購入するレコードプレーヤーとレコード盤を選びました。スタジオでの使用を想定していましたので、レコードプレーヤーはBluetoothスピーカーにも接続できるION AUDIO Premium LPをチョイス!
レコードは平松さんからおすすめしてもらった、ミニマル・ミュージックを代表するアメリカの作曲家Steve Reichのレコードを購入しました。
ちなみにスタジオまでの帰路は、新しく買ってもらったおもちゃで遊びたい子供のように、ウキウキが止まりませんでした。
スタジオに到着後は、すぐさまプレーヤーの箱を開封。
いろいろ悩んだ結果、カメラ防湿庫の上にレコードプレーヤーを設置することにしました。
…見てください!まるでここにプレーヤーが来ることを待っていたかのように、驚くほどぴったりサイズです。
思わず見惚れてニヤニヤしてしまいました。
それではいよいよ、購入したレコードを流してみます。
レコード盤に針を落とすという行為は、神聖な儀式のようにも感じます。
思わず緊張で手が震えてしまいます。
ゆっくりと、優しく、針を盤に落とします。
プツッ…ササァー…
針がレコード盤の溝をなぞる音が、なんとも言えず心地よいです。
しばらくすると、音楽が流れてきました。
レトロとか懐かしいという音ではなく、優しい味わい深い音だと感じました。
不思議とずっと聴いていられます。
当日はまだ仕事が残っていたのですが、しばらくはレコードに聴き入ってしまいました。
レコードはちょっとした手間が魅力
スタジオにレコードが来てから、毎朝のルーティンが変わりました。
僕は出社してまずはコーヒーを入れる準備をします。それまではお湯が沸くまで時間はメールチェックやスマホをいじる時間になっていましたが、今はその日にどのレコードを聴くか選ぶ時間になりました。お湯が沸くまでの時間が、気持ちを仕事モードに切り替える時間になったような気がします。
音楽を聴く時にボタンを押すだけで再生されないのは、デジタル慣れした僕たちからすると少し手間かもしれません。でもその手間が、生活の中で失ってしまった考える時間をつくったり、何かのきっかけになったりすることもあると思います。
手間が魅力に変わるレコードのある生活、ぜひ一度お試しください。