植物と共に、健やかな成長を。「あしたがすき」になる保育園。
風のふくまま、庭ぐらしvol.2
「あしたがすき」
そんな素敵な名前の保育園がこの4月、愛知県知多郡東浦町に開園します。
ひらがなで優しく問いかけてくるようなこの名前を見ると、早く明日になって欲しくて、待ち遠しくて、眠れない日ってあったよな、、、大人になった自分は「今はあしたが好きかな?」なんて思わず深く考えてしまいます。
実は、この度この保育園の園庭を作庭させていただいたのです。
そして、この園名の命名者でもある園長さんが、安井素子さん。
今回私がご紹介したい方です。
素子さんと私は以前から親交があり、いつも何かしら”植物“を介してお付き合いが続いています。
素子さんは、保育歴40年以上のベテラン保育士であり、絵本研究家としての側面もお持ちの方なんです。
一斉にざわめき始めた春の芽吹きは、新年度を迎える人々をよりソワソワとした気持ちにさせますね。
ちなみに私の長女もこの春、県外へ進学のため旅立ちます。
私が絵本好きになったのも、子育てがきっかけなんです。
毎晩、絵本の読み聞かせをしていたのですが、大人の自分がお話しに感動して声を詰まらせたりすることもあり、特に綺麗な風景が描かれた絵本はたくさん購入してしまいました。
今回、絵本のような風景を具現化したい造園家の私が、絵本の専門家でもあるベテラン保育士である素子さんにインタビューを行いました。と言っても開園前のお忙しい時期なので、ジンチョウゲの香りが漂う園庭での立ち話。足りないところはメールでのやり取りで補足した記事となります。
この記事が、植物や絵本を取り入れた子育ての在り方の1つの参考になったらうれしいです。
柵山:今日はよろしくお願いします。素子さんと知り合ったのは、素子さんの前職場である春日井の保育園の件で「園庭のない保育園に植物を取り入れたい」という相談を受けたのがきっかけでしたね。その時は菰野町まで訪ねてきてくださって。
安井:そうでしたね。園庭がないってことは、緑もないし、花も植えられない。そう思ったときに、柵山さんがイベントの舞台にプランターで花を飾っていたのを思い出して、そうだ!土がないウチの保育園てもなんとかなるかもと思ったんです。
小さなことにこだわって、小さなことを楽しむ。そんな時間が園内にたくさんあったらいいなあという思いを柵山さんが屋上テラスで叶えてくれましたね。
柵山:その後もお付き合いが続いて、素子さんが絵本のコレクターでもあることから、ご無理を言って実現したのが、ノリタケの森で実施した”森の絵本図書館”でした。
安井:とても楽しいイベントになりましたね。わたしの絵本は売り物でも借り物でもなく、わたしが1冊1冊買いためてきたものなのです。以前からたくさんの人に手にとってもらえたらうれしいなあと思っていました。
だから柵山さんから屋外の木々の中に絵本を飾りたいという提案があったときには、「わあ、やった!」という気持ちでした。絵本が木漏れ日の中やトラックガーデンの上で喜んでいるようでしたね。
柵山:この企画はとても好評で、今でも大きな反響があります。「大人が絵本を開くとき」というテーマを設定。花や緑のある暮らしをアートの力を借りて社会に提案する「森のピクニックガーデン」イベントの一環でした。私が子育て中に経験した、大人になってからの絵本の学び。それを多くの方にも経験してほしくて考えた企画です。植物にまつわる書籍だけで安井さんから100冊くらいお借りしましたね。
安井:また、是非やりましょう!
柵山:絵本って、人生においてとても大事なことが素敵な絵と共に表現されているじゃないですか。初心というか大事な事を思い出すというか、子どもの頃に持っていた世の中への大きな期待感も同時に思い出すんです。大人にも「子どもごころ」を思い出して、ちょっと立ち止まって、根本的に考えてみることって必要だと思うんです。
安井:私は絵本を読んでいる時の子どもたちの反応を見るのがとても楽しいんです。小さな絵本の中の絵なのに「でっかい!」とさけんだり「あぶない!」といったり、本当に怖そうにしたり・・・私があんまりおもしろくないと思った本でも、子どもたちがそのおもしろさに気づかせてくれます。この新しい保育園にはすべての部屋に本棚があって、場所ごとにテーマが分かれていたりするんですよ。
柵山:それは楽しいですね。保育園に絵本をこれだけたくさん取り入れている一番の理由はなんですか?
安井:私、これまでに絵本の嫌いな子に会ったことがないのです。絵本は、子どもたち一人一人の好きにちゃんと答えてくれる。今日もたくさんの本の中から車の絵本をさっと手に取り読み始める子がいて「車が好きなんだなあ」と思ったんです。大人がそれを知るだけでも、子どもとの距離がぐっと近くなる。だから、自分で選んで手に取れる面出しの本棚にこだわりました。
柵山:なるほどよくわかりました。園庭のお話も伺いたいのですが、念願の園庭のある保育園ですね!素子さんは、園の設計段階からずっと建設工事の窓口として対応をしてこられましたね。
安井:はい。建築会議で園庭のことを考えている時はとても幸せな時間でした。
柵山:園庭のデザインをするうえで、素子さんのご意見が大変参考になりました。「子どもたちがどんな動きをするのか」などイメージが具体的で分かりやすかったです。今回の園庭では特に築山と土管が特徴的だと思うのですが、その辺りのお話を聞かせてください。
安井:購入価格がネックというのもあったのですが、まず固定遊具を無くすことを考えました。その時にふと「土管があったらいいなあ」と思ったんです。ちょっとひんやりして、暗くて、秘密基地みたいでしょ。そんな話を建築会議でしたら、昭和育ちの設計士さん、理事長、そして私が子どもの時の感覚を思い出して、「土管いいね!」という流れに(笑)。子どもって、やっぱり高いところが好きなんですよね。大きくなることに憧れている子どもたちにとって、高いところから見る景色は大人が考える以上に楽しいことのような気がしています。
柵山:四季を五感で感じることができる工夫も盛り込みましたね。どろんこ遊びができたり、畑もあって、お花のタネを蒔く花壇もある。香りが特徴的な植物・実のなるもの、葉っぱの形が面白いものなどなど。運動場としての園庭というよりは、庭を作る感覚でデザインさせていただきました。
安井:柵山さんが花壇も植栽も畑も柵がなく、子どもたちがいつでも自由に入っていい場所にしてくれたことで、グッと木や花や野菜が子どもたちの身近なものに感じられる気がしています。日々成長する植物と子どもというのは、当たり前になくてはならない仲間のような存在なのかも!
柵山:あと職員室の横に植栽帯を設けたのは、私のこだわりです。きっと、先生たちは先生たちで、木々を愉しみたいはずだと。窓が大きくあることは図面で分かっていたので、窓から木々の枝が風に揺れる姿を眺められる職員室をイメージしました。大人が楽しんでいることを子どもってちゃんと見ているから、大人が木々や花をみて、普段から綺麗だねと言っていれば、それは、自然と子どもに伝わるだろうというのが、私の考えです。
安井:夕方ちょっと疲れを感じる時間に西陽がさすと本当に癒されます。園の中にアートが普通にあるって素敵ですよね。
柵山:また、植物の名前がついたクラス名も最高に好きですね。「じゅーんべりー」なんていうクラス名、日本初ですよね(笑)。他にも「あおだも」「きんもくせい」などなど・・・ひらがなで書くとかわいいし、実際に園庭にその植物があるところもいいと思います。
安井:これからを生きていく子どもたちは環境に無関心ではいられないはず。大人も知らないような樹木の名前を子どもたちが知る。SDGsにつながる感覚が子どもたちの中に残るといいなあと思います。木をすくすく育てるには、太陽と雨と土が必要ということで、事務室がおひさまの部屋、給食室がだいちの部屋、遊戯室がにじの部屋となっています。ちなみに子どもたちの個人マークはレッサーパンダやバク、オオアリクイなど絶滅危惧種です。
ちょうど開園前の多忙な時期にインタビューさせていただきましたが、安井さんは普段からお忙しい方で、いつも話し足りない気持ちになります。おすすめの絵本や子どもたちとのエピソードなど、たくさん聞いてみたいことがもっともっとあります。だから「あしたがすき」と命名した理由には、あえて触れませんでした。そこには、素子さんの深い思いがあるから、簡単には語れないのです。
寒風の中植栽した園庭の植物たちも、いよいよ動き始めました。間もなく芝は青くなり、木々の葉は茂り、鳥や蝶がやってきて、夏には、向いの松林が木陰を作り、セミの鳴き声と子どもたちの元気な声が大合唱・・・そんな「あしたがすき保育園」の未来が今から目に浮かぶようです。