ズボラな人でも楽しめる「宿根草ガーデン」のススメ
風のふくまま、庭ぐらし vol 5
こんにちは。ガーデンデザイナーの柵山です。最近、四季折々の植物と共に暮らすことへの憧れを抱く方が徐々に増えているように思えます。
庭への求めも、眺めるだけでなく、そこで過ごし、育て、利用できるものに、変化しています。
けれども、ガーデニングをこれから始めようという方からは、しばしばこんな質問をされることが多いです。
「ズボラな私にもできるのでしょうか?」
定期的な水やりや植物ごとの肥料の配合、害虫対策など事細かな管理と、ガーデニングに対して少しハードルの高さを感じられている方が多いのかもしれません。でも「ガーデニングは大変なもの」というのは実は先入観だと私は考えています。
実際、私の庭は、昨年1年で1回もホースで水やりをしませんでした。
例えば、街路樹や山の草木に、誰もホースで水をあげていないのと一緒です。
花壇って、季節ごとに植え替えをしていかないと綺麗に維持できないと思っていませんか?
ガーデニングはもっと“ズボラ”に楽しんでもいいんです。
“ズボラ”という言葉には、だらしないとか雑という意味もありますが、ポジティブに捉え直せば、ある意味、気さくでおおらかなイメージにも受け取れます。
細かいことは気にせずに、予定外の変化も受け入れ、むしろその変化を愉しみとして捉えることができる事だとしたら、ズボラってなんだかいいですよね。
今回はそんなズボラさんにもぴったりのガーデニングを紹介します。
それは、宿根草(しゅっこんそう)ガーデンです。
そもそも宿根草って?
宿根草(しゅっこんそう)とは、季節が変わっても枯れることなく、毎年花を咲かせる植物のことです。
冬は地上部が消えて無くなりますが、土の中に根っこが残ります。冬でも草が残るものもあるので、それも含めて多年草という言い方もできます。
一方の一年草は、種子などから芽を出し、成長して花が咲き、種子ができると、枯れてしまいます。
多くの方が、草花を楽しむ庭は、植え替えが必要だと思っていて、その花の組み合わせをアレンジする事がガーデニングだと思っています。
“花“という部分だけをフィーチャーし、その季節に咲く花を常に求めるのです。
冬でさえも、寒さに強いパンジーなどを植え込み、常に彩りを演出しようとしてしまいます。
しかし今、年中一定の彩りを保つ事に労力を使うのでなく、一度植えたら何年もそこで生育する宿根草を育て、芽出し、蕾、開花から実やタネを付けるまでの移り変わりを楽しむ価値観が世界中で広がり始めています。
サステナブルな生活様式の広がりの中で、自然のありのままの姿を受け入れ楽しみたいという人々の心の表れともいえるでしょう。
宿根草ガーデンのポイントは「地域の風土に合った品種」を選ぶこと
ただ、宿根草といっても、様々な種類があります。
園芸店など市場は、世界中の原産国の植物でいっぱいなのですが、手間をかけたくないなら「地域の風土に合った品種」を選ぶことが大切です。
日本原産のもの、日本の気候と近い原産国のものを植え込めば、必要以上の世話をしなくても自力で生育するのです。
<東海地区でよく育つ品種>
仮に原産が日本だとしても、信州や北海道のような冷涼な気候と東海地区では環境が大きく異なります。
東海エリアで宿根草ガーデンを楽しむなら、8月の猛暑や2月の寒波を乗り越える品種を選択する必要があります。
耐暑性があって、耐寒性もある。そんな宿根草をいくつかピックアップしてみましょう。
いかがでしたでしょうか?これらは私が好きなものであり、特に丈夫な品種とも言えます。馴染みのある花が多いかもしれませんが、これをどう組み合わせるかで個性が出ますよ。
宿根草を素敵に見せるコツ
宿根草の植え方も色々ありますが、イングリッシュガーデンのように、同一品種をグルーピングして、品種ごとのフォルムや色や素材感の折り重なりを楽しんでも良いですし、田舎の野原の景色を切り取ったように、自然植生的な植え込みをしても素敵です。
レンガの壁を背景に品種ごとに植え込みされたイングリッシュボーダー風の植込み。
宿根草類に挟まれたレンガの小径は、季節によって表情を変えます。
時期になると勝手に開花する宿根草。野性味が溢れるお庭になります。
オーナメンタルグラスでノスタルジックな雰囲気を
イネ科の他、カヤツリグサ科などの植物も含めた細長い葉を持つ植物の総称をオーナメンタルグラスと呼びます。
グラス系の植物を入れることで、ナチュラル感が出ます。どこかノスタルジックな風情をつくるのにもぴったりです。
グラス類の多くは、秋に花穂を出し、それが夕日に照らされると美しい光景を作り出します。風に揺れ、繊細な野花との相性がバツグンです。
新たなトレンド「ナチュラリスティックガーデン」
そしてさらに、宿根草の「枯れ姿」をポジティブに取り入れたスタイルが、世界的な植栽デザインの潮流として広がりつつあります。
宿根草が咲き終って変色をしたらすぐに刈り取ってしまうのではなく、枯れ姿に美しさを見出す「ナチュラリスティックガーデン」というスタイルです。
これはオランダのデザイナーによりヨーロッパから広がってきたのですが、なんだか日本人の「わびさびの心」に馴染みやすい気がしませんか?
植物以外の光や、風や、雨なども含め、心で感じる庭と言えます。
風に揺れる宿根草たち。
冬があるからこそ、春の大きな感動へつながる
寒風に染まった葉っぱや氷の結晶や積もった雪など、ガーデンには冬ならではの光景があります。そんな冬の景観が美しいと思えるのは、やがて春が来ることを我々は知っているからです。
宿根草ガーデンの冬は以外と長く、5ヶ月ほどはブラウン色の季節です。
だからこそ、感動の春となります。厳しい冬であればあるほど、春の喜びは、大きくなります。
宿根草の魅力、伝わりましたでしょうか?
私が考える宿根草の魅力は、人為的なデザイン意図と自然による偶然が生み出す経年変化の折り合いをどうつけるか、という調整であり、自然との共作にあります。
例えば、宿根草は、年々大きく育っていきますので、周囲とのバランスも変化してきます。
横に生育範囲を広げてゆく品種もあります。様々な雑草も生えてきます。可愛らしい雑草なら抜かずにいても良い。タネが飛んできて一年草が咲くこともあります。タネで増え易いそれらは徐々に広がってゆきますが、全て抜くのか、程よく残すのかはあなた次第です。
私の庭では数年前に植えこんだオミナエシとガウラが広がり、間からテッポウユリの仲間が勝手に生えてきました。
芝のフェンス際の一角。芝以外一切植えていないのですが飛んできたタネから生えたペンステモンとナデシコと雑草たちで賑やかです。
なんだか素敵なので、そのままにしています。
宿根草がガーデニングの在り方そのものを変えるかも?
ズボラでも、いやズボラだからこそ楽しみを見出せそうな「宿根草ガーデンの世界」。
全く何もせずに、ほったらかし、、というわけにはいきませんが、庭の変化を受け入れることが楽しみになりますし、そこに植物らの生命力や命の循環を強く感じることができます。
まだまだ愛好家のためのものと思われているガーデンニングの世界が、宿根草をきっかけにもっと多くの人に広がってほしい。
近年の宿根草ムーブメントは、そんなガーデニングの在り方を変えるひとつの流れになるかもしれません。
*今回の記事の画像は全て、東海地域である愛知県と三重県の商業施設や個人邸で撮影されたものです。