「考える力」が自然に育つ ”森のようちえん”を訪れる
花、暮らし、私 vol.12
4月。
全国の入学式・入園式も終わり、子ども達もドキドキの中、少しずつ新しい生活に馴染もうとしている頃でしょうか。
先日、近所の公園で、大好きなシャガの花の開花を見つけた時、とても嬉しくなりました。桜は終わりを迎えても、まだまだ、春の花に心を癒されます。
私が小さな頃は、どんなだっただろう?
思い返すと、幼稚園時代はダンゴムシやカミキリムシを集めたり、拾って来たサザンカの花びらでハンカチを染めたり、という記憶が今でも鮮やかに残っています。
少しずつ大きくなるにつれ、自然と戯れることは減り、スポーツやゲームに勤しむ時間が増えていって、気がつけばもう大人です。
幼少期って、ほんの短い一瞬だけれど、あの自然に近い距離で遊んだ記憶のように、長年自分の中に色濃く残る記憶って、すごく尊いものだなぁ、と思うのです。
今回は、そんな幼少期の自然体験についてお話を聞きに、森のようちえん「おさんぽや なないろ」 さんのところへお邪魔してきました。
“森のようちえん“ってどんなところ?
“森のようちえん“
…なんだか絵本に出て来そうな素敵な名前ですが、もちろん、絵本ではなく実在するようちえんです。
北欧発祥の森のようちえんは、その名の通り 森の中・自然の中を活動の場とする、自然体験活動を基軸とした子育て、保育、乳児・幼少期教育の総称とされています。
海外だけでなく、日本全国にも広がりつつある森のようちえんの活動。
私も今回初めて知ることになったのですが、まだまだその存在は一部の人にしか知られていない印象です。
小さな頃の私は、幼稚園からたまに外に出て公園に遊びに行くのがとても楽しみでした。
それがこの森のようちえんでは、毎日がフィールドワーク!自然の中での体験や発見はさぞ楽しいことだろう、と、興味津々です。
おさんぽや なないろの活動
そんな森のようちえんに加盟しているNPO法人「おさんぽや なないろ」さん。
実際にどんなことをされているのか? 愛知県大府市を拠点に活動されている なないろさんにお話を伺いました。
この日は普段のフィールドワークは春休みということで、なないろさんの活動の一環で管理されている畑にお邪魔して来ました。土のある場所にお邪魔するのはとっても楽しみです!
そら豆の花が綺麗に咲いていました。野菜の花は普段見ないので新鮮!
この畑では、お母さんたちが無農薬でネギやニラ、春菊、ほうれん草、ジャガイモやそら豆…様々な野菜を育てられています。
この日はちょうど収穫をされていて、採れたての菜の花を“甘くておいしよ” と手渡してくださいました。
パクッと一口。
これが本当に甘くて美味しい!
このやりとりがなんだか嬉しいですね。
ぜんぶ子ども達で考える。カリキュラムなしの活動スタイル
なないろさんでは大府近郊の公園や森・畑・川などの自然を活動場所とされています。
親子で参加する0歳児〜のクラス、2歳児、3歳児、会員じゃなくても参加できる活動など、様々なクラスがあるのでそれぞれの生活スタイルに合わせて参加ができるそうです。
春には野花を使った遊びもあるそうで、私が参加したいくらい楽しそう!
夏は水遊び、ザリガニ釣り、秋の落ち葉拾いに冬のみそ作り!
一年を通して自然の中で遊びながら、仲間や大人との関係性を築く中でたくさんの学びがありそうです。
「一人ひとりのペースで過ごすこと、やりたいことと向き合うこと、自分を表現すること、四季を感じること、お互いを想い合うこと」を大切にしているというなないろさん。
その日、自然の中で何をするかは、子ども達が自分たちで決めるのだそう。それぞれが考えたことを共有して、反対意見が出たらそれをどう解決するか、誰か一人が我慢をするのでなく、みんなが納得できる方法を考える。すべて子ども達が自主的に考えられるよう、大人はあくまで見守り役に徹しています。
なないろさん含む、森のようちえんが大切にしていることとして、
『子どもの力を信じ、子ども自身で考え行動できる雰囲気をつくる』というコンセプトがあります。
これって、なかなかすごい事じゃないでしょうか?
言うは易しで、見守りに徹するというのは、まだ子育て経験のない私が想像するに、なかなか難しそうだなぁという印象です。
何故なら、私たちも大人の助言を聞いて幼少期を過ごして来たし、自分の知っていること、経験して来たことをそのまま教えてあげたほうが、優しい気がしちゃうから。そして何より、こちら側が早く安心したいから。
でも、そこでグッとこらえて、子どもが自発的に考え行動できる機会をつくれば、子どもはちゃんと自分で解決していくことができる。その力をつけて行くことができるということを教えてもらいました。
「大人を退屈そうに待つ子ども」という構図はここにはありません。
「子どもの身に危険がある時以外は基本的に見守ります。誰かを悲しい気持ちにさせてしまった事にどうしても気が付けない子がいた場合は、 “ちょっと〇〇ちゃんの顔を見てあげて”、と声をかけるだけ。あとはその子たちで気づいて自然と解決していくんです。」
とおっしゃったのは、なないろ代表の近藤さん。
その力を信じてあげることこそが、本当に子どもの為の優しさなんだと、お話を聞いて感銘を受けました。
幼少期、私が育って来た環境では、多くの場合、大人は「答え」を教えてくれた気がします。だからこそ、物事がスムーズに進むことももちろんありました。でも、自分で「考える」「答えを導き出す」力、という点に関しては、大人になるにつれ焦りが芽生えたことも事実です。
これは、今の大人こそ学ぶべきことなんじゃないか?と思うほど、お話を聞くほどに気づきや学びがありました。
何故そうなるのか?その答えの理由を考えたり、答えを自分で導き出す力は今この時代に必要不可欠な大切な要素だと思います。
疑問を持つことから広がる新しい選択肢
「保育園は小学校に入る前の準備期間。その準備期間に何を学ぶのか。
小学校に行った時にスムーズに周りに合わせて溶け込む為の時間にするか?
自分で考え状況を判断する力をつける為の時間にするのか? 」
近藤さんのこの言葉にもハッとしました。
既存の保育は、前者の考えのもとつくられているような気もします。これも大事な要素かもしれませんが、“みんながやるから自分もやる”、“先生に言われたからやる”という思考が根付いてしまうと、そこで考える力は止まってしまいます。
“周りに合わせていれば”…の先には、主体性が薄くなったり、何か起こった時には人のせいにしてしまうかもしれません。
保育園・幼稚園の時代にそういった考える力から身につけるのは、一生に関わる大切なことなんだと教えてもらいました。
春の草花遊びのお話を聞きに行ったつもりが、
ものすごく大切な学びの時間になりました。
大人も子どもも学べる場づくり!広がるなないろの活動
今季で5年目になる おさんぽや なないろさん。少しずつ参加者もスタッフも増え、活動の幅も広がって来ているそうです。
今回お邪魔しているこの畑も、「畑の母さん部隊」という、お母さんたちのコミュニティづくりの為に生まれた活動の一つなんだとか。無農薬の野菜を育てながら、お母さん同士でコミュニケーションをとる事によって大人も様々な学びを得ることができます。
「小学生畑クラブ」という、コロナ禍で子どもたちが遊べる場所を作る為に始まった活動もあります。一年をかけて、大人と一緒に田植えから稲刈り、農作業のお手伝いや採れた野菜で料理をする。「人と人」「人と自然」の関係を育む居場所をつくられています。
こうして、課題を見つけてはチャレンジしてどんどんと繋がり広がっていく活動。
子どもだけでなく、それを見守る大人の方にもたくさんの学びを与えてくれます。
私たちが子どもの頃には聞いたこともなかった新たな選択肢。
ただ“自然に触れる・感性を育む“だけではない保育のあり方。
植物を追いかけていくと、自然に繋がり、食や地域に繋がり、教育にも繋がっていく。
全部が繋がって世界ができているんだなぁと改めて感じる1日でした。
数年後には、この選択肢が限られた一部の人だけではなく、一般的な選択肢の一つになっていると楽しいな。
私自身が入園したくなるくらい、私たち世代の大人に是非知ってもらいたい素敵な活動でした。なないろさん、ありがとうございました!