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「暖簾(のれん)」の入り口をくぐってみた
伝統は今を生きる vol.21
こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
みなさんの身近には「暖簾(のれん)」ってありますか?
家には無いとしても、この日本に暮らしている限り「見たことがない!」という方はいないのではないかと思います。実は僕のスタジオには暖簾があって、他の方よりは身近な存在だったりするのですが、実は暖簾についてはほとんど知らないことばかりです。今回は改めてそんな暖簾について調べてみたいと思います。
実は「暖簾」は日本特有の文化
そもそも暖簾とはどういうものかご存知でしょうか?そう、街中のお蕎麦屋さんやお鮨屋さんなど主に飲食店の店先に掲げられているあの布です。
僕も初めて知ったのですが、実は暖簾というものは日本特有の文化であり、アメリカやヨーロッパはもちろん、中国やアジアにもない文化なのだそうです。
その始まりは、弥生時代までさかのぼります。チリやホコリ避けのために、稲藁などで編んだ筵(むしろ)や竹を編んだ簾(すだれ)が、暖簾の原型となったと考えられています。
暖簾と呼ばれるようになったのは鎌倉時代。禅宗の禅寺では夏場の強い日差しを避ける為に設置される簾を涼簾(りょうれん)と呼び、冬場の寒風を避けるために簾に布を張ったものを暖かい簾と書いて暖簾と呼ばれていたことが始まりとされています。暖(あたたかい)簾(すだれ)と書いて「暖簾(のれん)」になったという訳です。
室町時代・江戸時代には、この暖簾が「商店の目印」や「営業の合図」として使われるようになりました。また屋外広告としての媒体としても活用されだして、暖簾が店のブランド力を示すものになりました。「暖簾分け」という考え方も、このときに生まれました。
その後、暖簾は私たちに暮らしの中でどんどん身近なものに。飲食店でお客さんが出て行く時に汚れた手を暖簾で拭くという習慣も生まれ、暖簾が汚れていることは繁盛店の証になりました。
100年以上の歴史を持つ暖簾の老舗を訪れる
ウンチクはこれくらいにして、実際にどのように暖簾が作られるのか見てみたいと思います。今回は名古屋市にある老舗暖簾店「大坪旗店」さんにご協力をお願いしました。
大坪旗店の最寄り駅はJR鶴舞駅。そこから徒歩圏内の中区千代田に拠点を構えられています。千代田は一丁目~五丁目に分かれており、名古屋城下町から少し離れており、田園地帯が多かったことから地名にも田や松を使ったものがたくさんあったことから「老松の緑、田園の色濃く、千代よろず代かけて永遠に栄えるように」との願いを込められてこの地名がついたとされています。
さっそく店主であり染師の大坪與七郎さんにお話を伺いました。
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——本日はお忙しいところありがとうございます。まずは大坪旗店さんの歴史について教えてください。
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大坪:当社の創業は明治43年(1910年)。先々代から実に100年以上、手染めのオーダーメイド暖簾や旗等の制作を行ってきました。長年にわたり名古屋に拠点を構え、トヨタ自動車本社様や中日ドラゴンズ様をはじめとする地元有名企業様から個人商店様まで、主に商業目的の暖簾を多くの方々にご愛顧いただいています。
実は私自身は大学卒業後、後を継ぐ気はなく地元の有名和菓子店でずっと働いていました。父からも「暖簾は儲からないので無理にやる必要はない」と言われていたんです。でも、父が亡くなったタイミングで「せっかく続いてきたこのお店を無くす訳にはいかない」と40代にして暖簾作りの道へ。もともとサラリーマン時代から趣味の作家として染めのアート活動を行っていましたし、祖父と父の仕事も昔から見ていましたので、やり方は自己流のところも多いですが何とか後を継ぐことができています。
——もともとは暖簾店を継ぐ気は無かったんですね。大坪旗店のこだわりはどんなところにありますか?
大坪:いちばんのこだわりは、やはり「1点1点オーダーメイト」であることと「手染め」であることです。手染めは2度と同じ色が作れないという特性がありますが、逆にそれが一番の魅力だとも感じています。その時にできる「最良の色」を表現して、お客様にドキッとしていただける染めを実現できるよう心がけています。同じ色を再現したいというお客様もいますが、その時はハッキリとそれはできないし、できないからこそ面白いとお伝えしています。だいたいそれでご納得いただいていますね(笑)。
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——大坪旗店さんの暖簾制作の工程を簡単に教えてください。
大坪:当社では昔ながらのやり方を今も続けているんです。基本的には次のような流れになります。
1.型紙制作
まずは伊勢型紙等を使って、屋号やオリジナルのデザインを書き彫ります。
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2.糊づくり
餅粉や糖、石灰等を混ぜて糊を作ります。少し粘りを残すのがポイントです。
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3.糊置き
彫った型紙を生地の上にのせ、その上に糊を置いていきます。
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4.色引きの準備
表面に糊を置き終わったら生地に伸子(しんし)という道具を生地の両端が張るように取り付けます。そして裏面にし、刷毛で擦ります。そうすることで糊が生地の中まで入りしっかりと防染することができます。
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5.色引き
刷毛で色を引き染めます。手早く行うことでムラにならないようにします。
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6.乾燥
生地をしっかりと乾燥させることで色が落ち着きます。
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7.あぶり
色を定着させるために専用のガス機器で下から「あぶり」を行います。
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8.水もと
染め上がった生地を水洗いし、糊を落とします。この工程を水もとといいます。
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9.乾燥
再度乾燥させます。ここでも染め上げた生地がシワにならないように、伸子でピンと張ります。
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10.色さし(完成)
必要であれば、糊で防染し白く抜いた箇所に色を入れ仕上げます。ぼかしたりグラデーションを入れることで奥行きのあるデザインになります。
——ひとつのシンプルな暖簾が出来上がるまでにこれだけの工程があることに驚きました。ちなみに暖簾はどのような方が購入されているのでしょうか?
大坪:やはり蕎麦屋さんやお鮨屋さんなど和食店のお客様からのご依頼が多いですね。規模も大企業から個人店まで本当に様々です。たくさん店舗がある大手チェーン店さんの暖簾もオーダーメイドで制作しているので、実は1枚1枚、微妙に色や風合いが違ったりするんですよ。有名店の暖簾も多くやらせていただいているので、当店で作った暖簾は街中でたくさん見ることができます。
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——貴重なお話をありがとうございました。これから街中で暖簾を見る目が変わりそうです。それでは最後に今後の目標を教えてください。
大坪: 暖簾という文化は日本特有の素晴らしい文化なので、もっと個人のお客様にも暖簾に親しんでもらいたいと思っています。当社では展示会や染色ワークショップなども定期的に行っています。ぜひ暖簾づくりに触れていただくことで、暖簾文化というものをさらに身近に感じてほしいですね。
——大坪さん、お忙しい中ありがとうございました!
個人発注の暖簾制作もOK
今回暖簾のことを改めて取材してみて、知っているようで知らないことがたくさんあり驚きました。伝統的な文化だとは思っていましたが、まさか日本にしかない文化だったとは…。そして初めて暖簾製作の現場を見てみて、その技術の高さと仕上がりの美しさに感動しました。
現在僕のスタジオにある暖簾はネットで簡単に作ってしまったものなので、近いうちに大坪旗店さんで「こだわりの暖簾」を作っていただこうと考えています。大坪さんの暖簾は1点からオーダーできますので、個人で暖簾制作をお願いするのも全然アリなのではないかと思います。家で使ってもいいですし、贈答用にも喜ばれそうですね。
また、大坪さんは暖簾文化の普及のために、染色ワークショップ、暖簾講座やフトマニ図講座、個展・展示会など数々の催しを精力的に開催されています。ご興味がありましたら是非下記WEBサイトよりお問い合わせください。
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■大坪旗店
愛知県名古屋市中区千代田2丁目10−23
WEBサイト https://www.yoshichiro.net/
https://www.facebook.com/profile.php?id=100009074397779
龍体フトマニ書の会公式ホームページ http://ryutai-f.com/
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