
高校野球7イニング制を佐々木朗希型人材の観点から否定する
私の数少ない趣味の中に、高校野球の観戦や予想というものがある。私自身が高校野球に興味を持ったのは幼少の時、夏になると秋田に帰省した際におばあちゃんが高校野球を毎日見てた影響が大きい。中でも奈良の2強への憧れが強く、中学生の時ぐらいまで割と本気で智辯学園、天理に進学して甲子園に出ることを夢として持っていた。結果として、自分は野球よりも勉強のほうが才能があったみたいで、奈良県の公立高校に進学、野球部で甲子園を目指していたが最高で春に県大会ベスト4だったかな?で甲子園に行くことはできなかった。それでも、今でも毎年、奈良と近畿に関しては春も含めて予選はチェックしてるし、こと奈良と近畿の代表に関しては甲子園の戦績もほぼ当てることができるぐらいの高校野球オタクである。
そんな私は昨今の高野連のやたら積極的なルール改定を割と高評価している。近年だけで、投手の球数制限、タイブレーク、クーリングタイム、低反発バット、朝夕の2部制、昔に遡ると21世紀枠の新設等、概ね大賛成である。いつもやたら高校野球ばかり槍玉に挙げられるが、役所仕事でこれだけ仕組みの改善をスピード感もって実施できてるスポーツ他にありますか?って思う。別にサッカーとかが嫌いなわけではないけど、受験勉強ほっぽりだして冬に全国大会してるスポーツの方が個人的によほど批判されるべきと思う。ちなみに、リアルの仕事でも私は部下の評価はまず変化してることを一番重要視してる。やり方を変えないで予算達成より、やり方を変えて未達成を評価する。それぐらい、変化することに価値を感じるタイプ。
しかし、しかし、今回推し進められようとしている7イニング制の導入、これは批判さざる得ない。そう考えている。
8,9回のドラマがなくなるとか、野球が面白くなくなるとか、そんな野暮な批判をするつもりはない。それは観てる側のエゴかもしれないし、僕が現役の時にこのルール改定があったならば、低反発バットと合わせて智辯や天理に一矢報いる可能性は劇的に高くなるだろう、もしかしたら大歓迎したかもしれない。この問題に関して、私が一番懸念しているのは、若者の教育全般における影響である。
佐々木朗希型人材を量産することが正しいのか?
という観点から否定したいのである。
佐々木朗希型人材ってなんやねん?って思われると思うが、端的に言うと目に見えるスキルは高いが勝負弱い人材、と自分は考えている。佐々木朗希選手は最高の選手ですしドジャースでも必ず活躍できると信じていますが、高校時代からやたら過保護に育てられて物凄い投球をする割には年間の稼働率は悪く中途半端な成績しかあげられていない。彼のポテンシャルを考えれば、普通に沢村賞ぐらい取ってておかしくないと考える。私が監督の立場なら、佐々木選手よりたくさんイニングを消化して安定した成績をあげてくれる菅野投手や戸郷選手を大きく評価したい。そのような、イチ野球ファンから見てモヤモヤするこの感覚、実は実仕事でも若手社員に感じる事が多い。
佐々木選手に対して、かなり悪い言い方をして申し訳ないけども、この育成方法は佐々木選手ほどの才能があるからこそまだプロ野球選手として生きていける成績に繋がっているのだと私は思う。もし、才能もない凡人が佐々木朗希型の過保護な教育を受けた場合、何も形にならず、自分の限界もわからず、ここぞの勝負に勝てない打たれ弱い人材に育ってしまうのではないだろうか。今回の7イニング制の導入で若者がよりそのような、目に見える能力の向上に特化するが、上の世代から見れば結果に繋がらないから評価されないというような歪を大きくしてしまうのではないかと憂いてしまうのである。
奈良県といえば、天理高校が甲子園で初優勝した際、エースの本橋投手が怪我をおして投げ続けたことでその後の選手生命が絶たれたことがあったらしい。(ちょうど私が生まれた頃の話で実際のことはあまり知らない)。実は小学校の頃から先生にそんな話をされたことがあり、奈良の球児は恐らく他府県よりもそのあたりのリスクの感度が高い。その為、昨今高野連が取り組んでいる球数制限や低反発バットの導入はまだ理解できるし、賛成派ではある。元の環境はあまりに打者有利であった。
しかし、今回提唱されている7イニング制まで導入すると、もはや9回投げきるスタミナや忍耐力やテクニックの類は無価値になる。短いイニングでも最大出力の高い選手、安定感よりも個性的な選手、弱点が少ないよりも長所が強い選手、が評価されるしそのように育成するだろう。実際、学生野球のレベルならそれで問題ないのかもしれないが、残念ながら実社会のビジネス上の戦いはそれで勝てるほど甘くはない。
実社会、ビジネスにおいて成功する上で一番重要なのは実は継続と忍耐と勝負強さ、である。コミュ力が高いとか、何ヵ国語話せるとか、プログラミングできるとか、ひとつひとつのスキルは実はそんなに重要ではない。なぜなら、ビジネスの環境は日々めまぐるしく変わっていくし、競合も常にアップデートされていき、自社の強みなんてすぐに模倣される。スポーツの世界とは違い、佐々木朗希が投げる160キロの剛速球が半年後にはコモディティ化し誰もが真似できるようになってしまう世界なのだ。そんな中で、重要なのは目まぐるしく変わる戦況に動じないメンタルと相手の出方を考えて対策を行う試合勘なのであるが、これを養うためにはなるべくたくさん厳しい環境化での真剣勝負の実践を積む、自分よりも能力が高い相手を倒すために相手を深く分析して自分が変化すること。このような経験の育成には、より長いイニングをどう相手を抑えきるかという方向での教育方針は捨ててはいけないというのが私の私見です。
まとめると、7イニング制自体がどうと言うよりも、これ以上長期安定型の選手や目に見える数字は強くないけど実戦では格上を凌駕する勝負強いチーム、の価値がなくなるような野球界になってほしくないという気持ちが強い。メジャーリーグよりNPB、関東の高校野球より近畿の高校野球、のほうが選手のポテンシャルは低いけど試合になると後者が勝つ。今日本に必要なのは、後者タイプの勝負強い若者だと思うんですよ。
その代わりに酷暑対策をどうするかと言えば、やっぱり我々みたいなベンチャーが技術的なブレーク・スルーを目指すしかないでしょう。若者の夢のために、大人ができることをしないといけない。