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解き明かされた不死の理由 そして始まるかつての呪い 高橋留美子『MAO』第23巻
平安から大正まで、およそ九百年にわたり続いてきた呪いと因縁。その真実がついに明かされることになります。ついに蘇った大五が、因縁の五色堂で己の死の真実を語る時、解き明かされる継承候補者たちの不死の理由。それは同時に、かつての呪いの再開を意味することに……
前の巻を紹介したブログ記事はこちら。
土人形として生きる夏野を動かし、紗那の死の真相を探ろうとする大五の魂。大五を完全に復活さようとする猫鬼が協力した結果、自ら望んだものに見えた紗那の死は、幽羅子が誘導したものであったことが明らかになります。
そして夏野に襲いかかる猫鬼の気配を察知して駆けつけた摩緒と菜花は、突然、五色堂に転移させられることになります。九百年前、御降家の後継者候補五人が集められた五色堂――そしてそこに、百火、華紋、白眉らも集められ、ついに不死の呪いの正体が語られるのです。
猫鬼の器候補として呪いを受け、不死に近い長命を受けてしまった摩緒。しかし猫鬼の呪いを受けたわけでない彼以外の後継者候補たちまでもが不死であった理由は、これまで不明のままでした。
物語最大の謎であった後継者候補の不死の理由――ここで明かされるその理由は、この後継者争いに隠された真の目的に関わるものであり、そしてそこに生じた幾つもの誤算が招いた結果だったのです。
後継者候補に選ばれた五人が、最後の一人まで殺し合わなければならない――そのルールに生じた破綻。そして大五の「死」こそはその破綻の原因であり、だからこそルールを常態に復するために大五が必要だった……
そう、ここでは後継者候補の不死の理由だけでなく、その他の御降家にまつわる謎の多くが同時に明らかにされます。後継者争いは何のためのものであったのか、摩緒はそこでいかなる位置づけだったのか、大五はなぜ復活したのか、いや復活しなければならなかったのか。そしてなぜ猫鬼が大五を復活させようとしたのか?
一見無関係にも見えた数々の謎が、一つの真実が明かされたことで次々と結びつき、解き明かされていく様には、一種の快感すら覚えます。
(本来であればこの場にいるはずのない人物が、この始まりに関わっていた、という構図にも脱帽!)
しかし、謎が解けて全てが終わったわけではありません。いやむしろ、謎が解けたことで、九百年前の呪いが復活――それは、再び後継者争いが、そして後継者と摩緒の戦いが始まったことを意味するのです。
もちろん、だからといって、これまでの戦いの構図――摩緒・百火・華紋vs白眉・不知火という関係性までもが変わるわけではありません。まず戦う相手、滅ぼさなければならない相手は、敵対する勢力の人間であり、それはいままで繰り返されてきた、摩緒たちと新御降家の戦いが継続することを意味します。
いや、はたしてそのままでしょうか。この戦いが始まった意味を考えれば、新御降家の術者として集められた「現代」の五人は、九百年前の呪いに巻き込まれた犠牲者なのではないでしょうか?
もちろん、好むと好まざるとにかかわらず、新御降家の五人は既に手を血に染めています。その罪から逃れられるわけではありませんが、しかしそれも御降家の存在が――御降家の呪いを受け継ぐ者があったからこそといえます。
この巻の終盤では、再び御降家の呪具にまつわる惨劇が発生。その収拾のために摩緒と華紋が向かった先で、彼らは新御降家の芽衣と出会うことになります。そこから起きる新たな悲劇――呪いが呪いを呼ぶこの悲劇は、新御降家の人間の中では比較的良識派であった芽衣に、呪いの重みを突きつけるものなのではないでしょうか。
そんなことを感じさせながら、物語は次巻に続きます。
ちなみにこの巻で妙に印象に残った台詞は、自分の師匠を評しての大五の言葉です。
「だから師匠は愚直に信じていた。人の愚かさ 卑しさ、邪さを。」
そうしたものを信じることに「愚直」と冠することで、師匠のキャラクター性が端的に現れるのに感心させられますが――同時にそれは、彼が仕掛けた呪いを解く鍵なのではないか、と考えるのは、考えすぎでしょうか?
前の巻を紹介したブログ記事はこちら。