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厳島合戦に「怪獣」乱入!? 星野泰視『戦国怪獣記ライゴラ』第1巻
『哲也』の星野泰視と『凍牌』の志名坂高次が組んだ新作は当然麻雀もの――ではなくて、戦国時代を舞台とした怪獣漫画(怪獣が出てくる戦国漫画)。この第一巻では、かの厳島合戦を舞台に、海から現れた正体不明の怪獣が、戦国武将たちの思惑を完膚なきまでに叩き潰す様が描かれます。
厳島を舞台に睨み合う、毛利元就と陶晴賢。両者が相手を引きずり出し奇襲をかけるべく繰り広げられた駆け引きは、陶方の読み勝ちに終わり、おびき出された毛利方に陶方が襲いかかった時――異変は起きました。
突如として海が異常に盛り上がり、そこから現れたのは、巨大な怪獣としかいいようのない存在――二足で立ち上がったトカゲのような巨体の背中に、幾本もの蜘蛛を思わせる足を生やしたその怪獣は、陶方・毛利方を問わず手当たりしだいに人々を蹴散らし、暴れ回ります。
そんな中、剣での成り上がりを夢見て陶方の陣に加わっていた男・十郎太は、かつて師から受け継いだ名刀を手に、単身怪獣に挑むのですが……
時代劇というのは、おそらく一般に想像されるよりもはるかに柔軟なジャンルで、およそ時代劇とは関係ないと思われる題材であっても貪欲に飲み込み、作品を成立させることがあります。
決して数は多くはないものの「怪獣」もその対象の一つであって、これまで様々な作品を生み出してきましたが、本作はその最新の成果といえるでしょう。
何しろ本作は、(この第一巻の時点では)怪獣が厳島合戦に乱入し、ひたすらに蹂躙する姿を描いた物語。大砲はおろか鉄砲もない中で、弓矢と刀槍のみで戦う人間たちを、ひたすらに謎の怪獣が叩き潰す様が描かれます。
そんな中でまず感心させられるのは、その怪獣の姿が、まさしく「怪獣」と呼ぶしかないものである点です。完全にこの世ならざる「魔物」でもなく、どこか生々しさを感じさせる「クリーチャー」でもない、現実的な存在感を持ちながらも、決して存在しない巨大な怪物――まさしく「怪獣」が、本作では大暴れするのです。
そのデザインもまた実に魅力的で、マニアの戯言ではありますが、「中に人が入ってそう」なバランスの体型がたまりません。本作の怪獣デザインは、ウルトラマンシリーズを中心に活躍している丸山浩が担当しているとのことですが、なるほど納得です。
そんな怪獣が暴れまわる本作は、時代劇と怪獣もの、両方が大好きでたまらないという人間の夢が形になった――というのはもちろん言い過ぎですが、リアルと絵空事のギリギリを行く姿に、大いに痺れます。
もちろんそれも、漫画としての描写の巧みさあってであることは言うまでもありません。まさに始まろうとしていた戦国時代の合戦(実に冒頭50ページは、普通の歴史漫画といっても通用する内容です)の中に、突然怪獣が現れる――言葉にすれば簡単ながら、絵にすれば途方もない虚構を、本作は巧みに描いてみせるのですから。
しかしその虚構の中で、怪獣が人間を蹂躙する姿をひたすらに描きつつも、本作は同時に不思議な爽快感すら感じさせます。
それは、自分たち以外を人間とも思わぬ武士たち――陶晴賢は十郎太と同じ村の兵たちを己の策の「撒き餌」として平然と利用し、毛利元就は捕らえたその兵たちを平然と拷問の末に殺す――が、怪獣たちの前では、武士も農民も、皆等しい存在(等しく粉砕される肉の塊)に過ぎないことを描く点によります。
(ちなみに史実とは異なり、本作では陶方が奇襲を成功させかけていたという展開がなかなか面白い)
人間と人間が騙し合い殺し合う合戦の中に、怪獣が放り込まれることによって、逆説的な人間性が生まれる――時代劇と怪獣ものを融合させたからそこ生まれる味わいが、本作にはあります。
しかしもちろん、人間の人間たる所以はそれだけではないでしょう。この巻で描かれたあまりの惨劇を見れば、怪獣を許さざる敵と誓った十郎太のこの先の戦いは、人間というものの意地を見せてくれるものになるのではないか――そう期待したくもなります。
そして次なる舞台は――厳島合戦と並ぶ、いや日本史上に残る奇襲戦となるようです。
そこで描かれる怪獣の怪獣らしい暴れぶり、人間の人間らしい逆襲が、今から楽しみです。