松原利光&青崎有吾『ガス灯野良犬探偵団』第3巻 新たなる仲間、新たなる……

 『地雷グリコ』が文学賞三冠そして直木賞候補と、いまノリに乗っている青崎有吾原作の、異色のホームズ譚もこれで第三巻。前巻で仲間を得たリューイに、新たな仲間が誕生します。そしてホームズの前にも、新たな人物が登場。その名は……

 姉貴分として慕っていた少女・ニナを喪い、彼女が雇われていた諮問探偵シャーロック・ホームズに自分も雇われることとなったリューイ。浮浪児を人間扱いしないホームズに激しい敵意を燃やしつつも、リューイは靴を見ることで相手の様々な情報を見抜くというその観察眼で、ホームズに食らい付いていきます。

 そして中国マフィア・磁刀会絡みの事件に巻き込まれたリューイは、そこで自分と同年代ながら凄まじい武術の遣い手・ジエンと出会い、仲間に加えることになります。
 そんな二人は、ある日サーカスの軽業師を目指す少女・アビーと出会うのですが――彼女は、サーカスで起きたライオンによる団長殺しの犯人の疑いをかけられてしまったのです。

 ライオンの檻の鍵が、いつの間にかポケットに入っていたというアビーの無実を信じるリューイ。彼がアビーを匿う一方で、警察から依頼を受けたホームズは、現場を見ただけで何事かを見抜いて……

 ライオンによる殺人は、コナン・ドイルの原典のある作品を思わせる題材ですが、本作はそこから全く異なる物語が描かれていきます。
 はたしてアビーでなければ誰がライオンの檻を開けたのか。そして何故団長はライオンに襲われたのか――ホームズ、リューイ、ジエン、そしてアビーと個性的な登場人物たちがそれぞれの思惑で動く中、今回もホームズの推理とリューイの観察眼が重なり合うことで、意外な真相が浮かび上がります。

 そしてその中でもやはり印象に残るのは、ホームズの態度でしょう。傲岸不遜で、表立っては決して口にしないものの、リューイの能力を確かに認め、共に事件を解決する――いや、本人は利用しているだけなのかもしれませんが――姿は、彼が原典とは大違いのイヤな人物だからこそ、逆に惹きつけられるものがあります。

 そしてこのエピソードの主人公ともいえるアビーも、助けられるだけでなく、ラストに大活躍を見せることになります。その類い希な軽業師の技だけでなく、何故軽業を見せるのか――彼女の師のエピソードともに語られるそれは、一種のエンパワーメントの物語として、胸が熱くなります。

 そして三人になった野良犬探偵団のユーモラスな日常、さらにホームズとリューイが出会うきっかけとなった事件の背後の不気味な存在を仄めかすエピソードを挟んで、新たな人物が物語に登場します。

 この巻のラストエピソードでは、その名がタイトルに冠されていながらも、目次では伏せ字になっているという、何とも気になるその人物の正体は――これはもう、何を書いてもネタばらしになりかねないのですが(一つだけ、ブルドッグをこう使うか、とニッコリさせられました)、ついに来たか! というほかありません。

 しかし探偵団にも仲間が増え、そしてさらにホームズのもとに――となると、気になってしまうのはリューイの存在感。はたしてこの先も彼は他の登場人物に埋没することなく、ホームズに食らい付いていけるのか――いや、これは心配するだけ野暮だというものでしょう。

 作者のインタビューによれば、物語はまだ序章とのこと。これからいかなる新たなホームズ譚が描かれることになるのか、期待に胸が躍ります。

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