再見「おっさんずラブ」 (2018) ~ 今こそ癒しの世界へ
年明けのドラマ界の最大の話題と言えば、あの「おっさんずラブ」天空不動産編が6年ぶりに復活したことであろう。途中、メインキャストをチェンジした連続ドラマや劇場版も制作されたが、多くの人に支持された2018年版の世界観とは少々違ったものになっていて、懐かしがる声も届いていたのだと思う。というわけで、ここはありがたくウォッチングをしていくところだろうが、過去、好評ドラマの「続編」の失敗例をゴマンと見てきた私は、一抹の不安もないわけではないのである。そこで、この、世の大盛り上がりの中でいささかヒネてはいるが、「正編」がいかに良かったかを記録しておこうと思う。
「おっさんずラブ」 (全7話 2018年4~6月・テレビ朝日)は、土曜ナイトドラマ枠(23時15分~0時05分)で放映された深夜ドラマである。日本にLGBTという概念が普及し市民権を得始めたのはこの2、3年のことであり、この当時はまだ同性カップルへの偏見は強かった。このドラマには先行して「単発版」(2016年12月31日深夜・テレビ朝日)が放映されており、制作者側がその反響をみて、これはいけると感じて連続ドラマとして送り出してみたものと思われる。それにしても土曜の深夜である。ほとんどリアルタイムで観ていたが、我ながらよく起きていたものだ(笑)。私にとってドラマの良し悪しは「次が楽しみになるか否か」で決まるが、「そうそう、夜にはあれがあるので起きていなきゃな」と当日の飲み会も早く切り上げて帰ってきた記憶がある。それでも「家に帰って『おっさんずラブ』を観なくちゃ」と口に出して言うのははばかられる、そんな雰囲気があったのだ。このひとつをとっても、復活までの6年の年月を感じるのである。
今回、記事を書くにあたって改めて全話通して観たが、やはり演者のキャスティングが素晴らしい。天空不動産のメンバー+居酒屋「わんだほう」の荒井きょうだいが、全員「続編」に出演してくれてよかった。
このドラマのファンは「春・牧」カップルの応援者が多いようだが、何が一番よかったかと言えば、私はベテラン吉田鋼太郎(黒澤部長)の振り切った演技だと思っている。むくつけきオヤジが、乙女ゴコロ全開で好きな人(しかも部下の男)にまっしぐら。これに少しでも躊躇が見られればキモイとしか言えないところ、そう思わせないところがスゴイ。第1回で「はるたんが、好きで~す! 」と叫んだシーン、春田は当惑するばかりだったが、視聴者としてはすっかりハートをつかまれてしまった。これからどうなっちゃうんだろう、この人(笑)。手を変え品を変え、春田に迫りまくった部長であったが、最後に教会で春田を牧のところに送り出し、披露宴の招待客に「・・フラれちゃった・・」というシーンでは、たしかに抱きしめてあげたくなった。ただ、最後まで春田とのキスシーンがなかったのには、正直のところホッとしたけれども(笑)。
はるたんこと春田創一を演じる田中圭は、昔からいる人で、好きな人は好きなんだろうな、という程度だったが、このドラマでは表情が実に豊かで魅力がわかった。牧とじゃれるところなんかは、おそらくこの人の地が出ているんだろうと思わせる。この作品は彼の代表作だろうが、本当の中年にさしかかるとワチャワチャとぐずってばかりの演技でもいられないので、これからが正念場ですね。
見かけは子犬のようだが、ツンデレの牧(林遣都)。第2シーズンを引き受けなかったのは、役者として色がつくことをしぶったのではないかと想像していたが、やはり春田の相手は牧でなければ。林遣都はこれまでいろいろな役で観てきたのだが、今一つインパクトに欠けるように思う。この人もこれからを見ていきたい。
他のキャストもこの間、さまざまなところで活躍してきた。黒澤の元妻・蝶子の大塚寧々は、「続編」でも年の差結婚をしてもおかしくないような相変わらずのかわいらしさ。その蝶子を押しまくって落とした歌麻呂を演じる金子大地は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」での好演が思い出される。「続編」ではちょっと実が入りましたかね。下手するとおっさん呼ばわりされちゃうよ(笑)。「正編」で春田の幼なじみでフラれてしまった幼なじみのちずを演じた内田理央。春田への気持ちに気付いて揺れ動く表情がすごくよかった。実写化「岸辺露伴は動かない」(NHK)の「六壁坂」のヒロインが印象的。「続編」であまり風貌に変化が見えないのは、「足ドン」の政宗(眞島秀和)と荒井鉄平の妻の座を射止めたマイマイこと舞香(伊藤修子)。みんなキャラ立ちがすごいのに、一緒にいる場面では見事に調和するという良いチームワーク。「正編」最終話のエンディングで、資料を床に落とした春田と一緒に部長が拾おうとしたとき、春田の見せた笑顔は絶品で、田中圭のファンでなくても魅了されて何度も巻き戻しで見ているくらい。このシーン、バックを見ると歌麻呂が涙ぐんでいるのが見えるが、これはシナリオ外なんじゃなかろうか。良い現場であったことがうかがえる。
この何年かの間に動画配信などで何度か見直しているが、決して飽きることがないのはいかによくできたドラマであるかを証明している。ドラマは役者だけではなく、多くのスタッフの共同作業であろうが、脚本もテンポよくできているし、音楽(劇伴)もそれだけ聞いていると大げさなのだが、各シーンにマッチしていて不思議と違和感がないのである(「続編」でも継続で嬉しい)。なんといっても作り手の、「人が人を愛すること」に性別や年齢などは障壁にならないとのメッセージを視聴者に伝えたいのだという願いが感じられる。キワモノ扱いを受けずに、伝わってよかった。
放映時、私自身は家族を亡くして元気のなかった頃だが、夜中にもかかわらず久しぶりに声をあげて大笑いした。コロナ禍の最中に観た時は、閉塞感が吹き飛ばされた。そして今、決してよい始まりとは言えない2024年に再見して、また癒しを得た思いでいる。まだ「正編」を観ていない方は、ぜひご覧下さい。そして、続編「おっさんずラブ-リターンズ-」がヒット作になることを願っております。
※ 今回のキャッチ画像は、「正編」初回で春田が歩く桜並木がきれいだったから、ロケ地ではないが借用。ありがとうございました。