ツナガルホールディングス事件(平成30年6月29日東京地裁)
概要
被告会社に雇用されていた原告が、うつ状態と診断を受けて被告会社に出社せず、休職期間の経過による退職告知又は解雇されたことについて、前記うつ状態は過重な業務等に起因するものであり、前記退職の告知及び解雇は無効であるとして、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、未払賃金の支払等を、また、被告会社の代表取締役から数々の嫌がらせを受けた他、長時間の残業を伴う過重な業務を命じられたことによりうつ状態となり、休職したと主張して、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求として、損害賠償金の支払等を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
1.元従業員の本件精神障害に至るまでの具体的な事情及び本件全証拠を総合しても,本件精神障害が「業務上の疾病」に当たると認めることはできないから,本件精神障害は業務上の疾病ではなく,休職期間満了による自然退職を定めた被告の就業規則の適用があり,休職期間満了までに債務の本旨に従った労務の提供ができる程度に元従業員の病状が回復していたとは認められず,同就業規則に基づき,元従業員は休職期間満了日の翌日に会社を退職したというべきであるから,退職の効果が発生していないことを前提とする元従業員の会社に対する地位確認請求及び退職後の期間に係る未払賃金請求はいずれも理由がない。
2.元従業員の持ち帰り残業の主張を採用することはできず,会社の事務所における始業時刻から終業時刻までの時間をもって,元従業員の労働時間と認められ,算定基礎賃金(時給)は2417円で当事者間に争いがないところ,これに労働基準法37条1項所定の割増率を乗じると,本件請求期間における割増賃金は16万5854円となり,また,元従業員は付加金を請求するが,会社は残業手当を一部なりとも支払っていることがうかがわれ,その他一切の事情を考慮すると,本件において,会社に付加金の支払を命じることは相当ではない。
3.Aの言動は,嫌がらせやいじめ目的の言動とまでは言い難いものの,Aが元従業員に対して同じ内容を繰り返し述べているほか,制作期限に間に合わなかった場合には会社を辞めてもらうと述べていることや,損害賠償請求を示唆していること,Web検定結果の報告を懈怠したことにつき始末書の提出を命じており,元従業員が原因での看過できない業務の滞りがあるにせよ,そのような言動をとる必要はなかったといえ,そして,元従業員がその時点で既にAに対する疑心暗鬼や緊張感は相当大きなものとなっていたことを踏まえると,元従業員の立場からすれば,前記Aの言動が,元従業員を心理的に追い詰め萎縮させていると認められるから,Aの言動は,上司であるとの優位性を背景に,業務上必要な程度をいくらか超えて行われた,元従業員に精神的な苦痛を与える行為であって,不法行為に当たると認められること等から,Aは,平成24年10月15日以降のAの言動につき,不法行為責任を負い,会社は,Aが業務上した不法行為につき使用者責任を負う。
4.本件精神障害の発症について業務起因性がないものの,会社及びAは,元従業員に対し,必要な程度を越えて強く指導・叱責をしたため,元従業員に精神的苦痛を与えたことの不法行為責任を負うから,被告らの不法行為に基づく損害賠償は,慰謝料100万円等とするのが相当である。