成功するマンガの実写化とは


 今年の7月から放送されたドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(以下、ハコヅメと表記)が、先日、ギャラクシー賞の9月の月間賞を受賞した。
 ギャラクシー賞とは、NPO法人放送批評懇談会が、日本の放送文化の質的な向上を願い、優秀番組・個人・団体を顕彰するために創設されたもので、審査は放送批評懇談会会員から選ばれた選奨事業委員会が担当するそうだ。(放送批評懇談会ホームページより)

 もともと、ハコヅメは、オリコンが調査した「ドラマ満足度ランキング」で100Pt満点、最終回放送時には、Twitterのトレンドランキングで世界1位になるなど、視聴者からの評価は非常に高かったが、それが、より証明された、ということになるだろう。

 この作品はマンガを実写化したドラマとして、非常に成功した例だと思う。今回、私なりにその理由を考察したい。

 実写化への一番の難関が、原作ファンをどう取り込むか、だろう。
 やり方は2つ。原作に忠実に再現するか、実写化は別物と割り切って新しい解釈で作るか。
 もちろん、原作ファンにとっては前者の方を圧倒的に求めている。だが、忠実に再現しただけは、感動は起こらない。人は予想通りの事が起きても、心を動かされないからだ。つまり、忠実に再現しつつ、ファンの予想以上の映像を見せることによって、その実写化作品の評価が高まるのだ。例えば、漫画の人間離れしたアクションを、見事に三次元で具現化した『るろうに剣心』の佐藤健のように。

 ハコヅメは、もともと原作がエンタメ作品としてコメディとシリアスのバランスが非常に素晴らしく、世間の評価も高かった。そして、そのエンタメの中に、作者の泰三子氏の、明確な、伝えたい想いが練り込まれていた。

 ハコヅメのドラマが世間から評価されたのは、ひとえに、その作者の信念をぶらさず、ドラマとして伝える姿勢があったからではないだろうか。

 新人警察官の川合麻依(演:永野芽郁)と、先輩警察官藤聖子(演:戸田恵梨香)のペアを中心に、交番で日々起こる事件と、その周りの群像劇。

 他の刑事ドラマのような、特殊でカッコいい仕事、ではなく、しょうもない事件や書類仕事もいっぱいあって、それに当たる警察官も、愚痴言いながらやってるんだ、とか。本当に、見ている私達のすぐそばにいるくらい普通の、ごくごく普通の仕事なんだと言うのが、“新人警察官の成長譚”に見せかけて、視聴者に訴えかけている。

 『踊る大捜査線』で警察官を目指す人が増えた、という話が作中にあるが、真反対のこの作品を見ると、警察官の人たちの、ありがたみが分かる作品になっている。小さな交通違反、切符を切られた経験がある人は多いだろう。点数稼ぎと揶揄される警察官たち。しかし、作中の交通課の宮原部長の川合への説諭。「当事者を増やさない為の俺達の仕事だ」という言葉で、「もう切符切られても文句言うのをやめよう」と思った視聴者は山程居るのではないだろうか。数多の交通死亡事故現場に立ち会った警察官しか言えないことを、このドラマではサッと盛り込んでくる。
 それは、もちろん、原作者が警察出身者、というのは大いにある。

 しかし、ドラマが成功したのは、原作の力に加え、演技力確かな俳優陣と、原作のエッセンスをドラマ用に見事に再編成した脚本家と、企画から真摯に取り組んだ制作陣の力、それら全てが合わさり、昇華されたからだ。

 それは、ドラマプロデューサーの藤森真実氏が、作者の泰氏から『覚悟が足りない』とドラマの準備稿を付き返された次の週に想像以上の物を作ってきた、というエピソードからも伺える。

 ドラマを通して伝えたいことが、原作者の伝えたい事をきちんと汲んでいた。それは、『警察官も、他の働いてる社会人と一緒で、普通の、しょうもない人間。でも、嫌われ者になりながら、必死に警察官の面構えをして、市民を守っている』ということ。それを、大衆が見やすい、受け入れやすいエンタメにしつつ、きちんとこの作品の想いとして伝えよう、と言うことが、見事に一致した作品に仕上がっていた。

 改めて、漫画という、二次元のファンタジーを三次元にする場合、成功する一助には、原作ファンの圧倒的な支持がある。
 ハコヅメでは、ドラマ制作陣の真摯に向き合った想いが、原作ファンに、引いては多くの視聴者に伝わり、高評価に繋がっている。

 ぜひ、ドラマの続編を期待したい。

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