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川のほとりで
※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5
【少女】ニホンカワウソ(絶滅種)。最後の一匹。
【男】河童。幻の生き物。
【場】川のほとり
※SEはあくまでイメージ
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(川の音)
(男、草をかき分けながら顔を出す)
男「おお、ここはまだ水が綺麗だ」
少女「誰?」
男「先客がいたか。驚かせてごめんよ、カワウソのおじょうちゃん」
少女「おじちゃんは人間?」
男「おじちゃんかー、おじちゃんはちょっと辛いなー。そこまで歳を重ねちゃいないんだが……まあ、おじょうちゃんからしたら俺もおじちゃんか」
少女「…………」
男「そう警戒しなさんな。人間じゃないから安心おし」
少女「良かった! お父ちゃんが人間には絶対近付いちゃダメだぞって言ってたの」
男「そうかそうか。見た所一人みたいだが、お父ちゃんはどこにいるんだい?」
少女「……私とお母ちゃんをかばって人間に捕まっちゃった。お母ちゃんが、お父ちゃんは毛皮を取られたんだろうって」
男「……そうか。辛いこと聞いちまったな。お母ちゃんは?」
少女「前に住んでた川がね、段々汚くなって泡がぶくぶく出て、美味しい魚もエビもいなくなったんだ。人間達が川を壊して住む場所もなくなって、お母ちゃん病気で死んじゃった」
男「じゃあお前さん一人かい?」
少女「うん」
男「……そうか」
(蝉が鳴いている)
男「ここはいい所だな。森が生きてるし、水も綺麗だ」
少女「うん。お母ちゃんが山の方に行きなさいって教えてくれた」
男「ここの暮らしは好きかい?」
少女「うん! こんなおっきくて手の長いエビがいるんだよ。それからお腹がキラキラした魚がいっぱい」
男「そうかそうか」
少女「川に潜ってお鼻と目だけを外に出す泳ぎ方もいっぱい練習したの。お母ちゃんが川から上がる時はそうやって外を見て、人間がいないか確認しなさいって」
男「ここにも人間が?」
少女「ううん。ここでは見たことないよ」
男「そいつは良かったな」
(男、少女の頭を乱暴になでる)
少女「おじちゃん痛い痛い。やめてってばー。あははは」
男「この辺に他のカワウソはいるのかい?」
少女「見たことない。でも虫も鳥もいっぱいいるよ。あとタヌキとかウサギとか」
男「そうか、やっぱりここにも……」
少女「おじちゃんはどこから来たの?」
男「俺かい? 俺はあっちの山からだよ」
少女「どうしてここに来たの?」
男「あっちの山にな、人間達が来たんだ」
少女「人間……」
男「最初は川に引きずり込んで懲らしめてたんだが、段々大勢の人間が来るようになってね。鉄で出来た大きな奴も連れて来て山や川を壊し始めた」
少女「痛いことされなかった?」
男「おじょうちゃんは優しいな。大丈夫、おじちゃんはすばしっこいからその前に逃げて来たんだ」
少女「でも痛そうな顔してる」
男「――こいつは一本取られたな。そうだな、ずっと住んでた場所だったからなー。やっぱり胸の辺りが空っぽになったみたいでちょっと痛いかもしれん」
少女「お薬いる?」
男「大丈夫だよ。こればっかりは時間が経たんと治らんからね」
少女「そっか。早く治るといいね」
(川の音)
(魚が跳ねる)
男「おじょうちゃんは寂しくないかい?」
少女「寂しい?」
男「多分もうこの辺りにカワウソはいない。もしかしたらおじょうちゃんは子供を産むことがないかもしれない」
少女「子供? 産む?」
男「お母ちゃんみたいになりたいかい?」
少女「うん! お母ちゃんはいつも優しくて温かくてだーい好き」
男「……そうか」
少女「おじちゃんは?」
男「ん?」
少女「おじちゃんは何になりたい?」
男「おじちゃんは元々家族で暮らす生き物じゃないからなー」
少女「一人ぼっちなの?」
男「そうだね……」
少女「ここに居ていいよ」
男「え?」
少女「おじちゃんの好きな物は何?」
男「……きゅうりと魚」
少女「きゅうりは良く分からないけど、ここにはいっぱい魚がいるから二人で食べられるよ」
男「そっか、ありがとな」
(男、少女の頭を乱暴になでる)
少女「痛い痛い。あははは」
男「本当にありがとな」
少女「おじちゃん泣いてるの?」
男「泣いちゃいないさ。さっき跳ねた魚のしぶきが目に入ったんだ」
少女「そっかー」
男「おじちゃん相撲強いからな。ここに居る間はおじょうちゃんの用心棒してやるよ。悪い奴が来たら投げ飛ばしてやる」
少女「ようじんぼう?」
男「おじょうちゃんを守るのさ」
少女「ほんと?」
男「本当だとも。河童は嘘をつかない」
少女「やったー! じゃあ換わりに上手な魚の取り方教えてあげるね」
男「おお、そいつは嬉しいね。是非お願いするよ」
少女「えへへー。他にもいっぱい遊ぼうね」
男「ああ、ずっとずっと一緒に遊ぼう」
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