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僕の好きなアジア映画40: マルリナの明日

『マルリナの明日』
2017年/フランス、タイ、インドネシア。マレーシア/原題:Marlina Si Pembunuh Dalam Empat Babak/95分
監督:モーリー・スリヤ
出演:マルシャ・ティモシィ、エギ・フェドリー、ヨガ・プラタマ

凄まじい映画なのだが、どこかオフビートな感覚に包まれている映画だ。今回はネタバレします。お許しください。

物語はインドネシアの荒廃した土地の殺風景な一軒家から始まる。一人の女性がそこに住んでいるが、どこかおかしい。部屋の中には寝具に包まれたミイラ(夫らしい)がいて(あって?)、さらに庭には子供のものと思しき墓が。つまり現在ここに住んでいるのはこの女性だけだ。

部屋の中にはミイラ

そこに盗賊の集団が現れる。女性一人ということで狙われてつけ込まれる。しかし追い詰められた恐怖の中彼女は怯まない。盗賊の大半を食事で毒殺し、首領と思しき男には犯されるのだがその途中で男の首を刎ねる。切れ味が悪そうな刀がとても痛そうだ。

盗賊の首領と

盗賊の残党から逃れるため、彼女は旅に出る。生首をまるでスイカのようにぶら下げてロバに乗り、バスに乗りこむ。途中で夫を探す妊婦を旅の道連れにして。

スイカではありません。
共に旅をする妊婦と

旅先で警察に自首を試みるが、相手にされない。結局行く場もなく追い詰められて元の荒屋に戻ることになる。しかし彼女は決然と最後の闘いに挑み、残党に打ち勝つ。旅を共にした妊婦が、そこで新しい命を授かる。

インドネシアが舞台でありながら、その荒涼たる景色や様相はまるでウェスタンのそれなのである。しかしポスターの「ナシゴレン・ウェスタン」なるコピーはいただけない。いかにも日本の配給元が考えそうなものに思える。「痛快」というコピーもちょっと気になる。一見痛快に見えていても、これは男尊女卑社会における女性の受難を描いた、悲しい物語ではないのか。しかしただ受難を描いたのではなく、それと闘い解決するのが彼女自身であり、主人公の決然とした強さをも描いている。そしていくら男性が女性を虐げても新しい命を創造しうるのは女性だけなのだから。明日に希望を託することができるのは究極的には女性だけなのだ。

モーリー・スリヤ監督

監督を務めたのはインドネシアの女性監督モーリー・スリヤ。本作が3作目の長編映画とのことだが、残虐なシーンもどこかユーモラスな味わいを感じさせる演出が素晴らしい。

第91回アカデミー賞外国語映画賞インドネシア代表。第18回東京フィルメックスで最優秀作品賞、18年インドネシア映画祭作品賞など多数。


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