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僕の好きなアジア映画39: 凱里ブルース

『凱里ブルース』
2015年/中国/原題:路邊野餐/113分
監督:ビー・ガン(毕赣)
出演者:チェン・ヨンゾン、グオ・ユエ、ルオ・フェイヤン、ユ・シシュ

ビー・ガン監督の長編デビュー作であり、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』に先立つ作品。僕自身はより洗練された作品として『ロングデイズ』の方がどちらかというと評価をしているのだが、この作品も勝るとも劣らない魔術があると思う。

ビー・ガン監督

この映画において「物語」はさして重要ではない。刑に服していた男が、出所して帰ってくる。老齢の女医の営む小さな診療所に身を寄せるが、妻も行方が知れない。可愛がっていた甥も自分の弟によってどこかへ連れ去られ、彼は甥を探しに旅に出る。プロットはほぼそれだけだ。話の筋道を理解しようとすることは、この映画ではあまり意味を持たない。この世界観をそのままに、感覚的に受け取ることによってこそ、この映画の魅力は観るものを捉えて離さない。

女医の診療所。犬が印象的。

『ロングデイズ』も本作も、どちらも「魔術的」な映画だと思う。しかし突如訪れる映像の意外性についてはこの映画の方が衝撃的かもしれない。主人公がダンマイという街にたどり着き、バイクに同乗した、その全く予測不可能な普通の瞬間からそれは始める。

重力の支配から急に免れた如く、時空を捻じ曲げたような感触に軽い吐き気すら感じる。『ロングデイズ』におけるあの浮遊するような長回し映像が夜であったのに比べ、本作でのその場面は昼であることが、より一層映像の衝撃度を高めているようだ。40分にも渡るワンカットの長回しを一体どうやって撮影したのだろうか。どちらの映画においても、時間的、空間的な逸脱は記憶の断片を羅列して流れに再構築したものであり、映像的な連続性を裏切る構造的な非連続性は「夢」と近似している。この映画全体としても、どこかみたことがあるような感触が湧いてくるのは、「夢」を強く感じさせるからだと思う。タルコフスキー的と言われる所以であろうか。

ビー・ガン監督は、1989年6月4日生まれで、年齢はまだ 33歳。本作と『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の2作品で既に驚くべきレベルに到達してしまった。この先彼がどのような驚きを見てくれるかは単純に楽しみなのだが、期待の大きさが彼に強いプレッシャーを与えすぎなければ良いなとも思う。

第68回ロカルノ国際映画祭新進監督賞、第37回ナント三大陸映画祭熱気球賞、台湾・第52回金馬獎最優秀新人監督賞


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