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僕の好きなアジア映画72: セールス・ガールの考現学

『セールス・ガールの考現学』
2021年/モンゴル/原題:Худалдагч охин/123分
監督:ジャンチブドルジ・センゲドルジ (Янчивдорж Сэнгэдорж)
出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル(Баяржаргал Баярцэцэг)、エンフトール・オィドブジャムツ(Энхтуул Ойдовямц)

モンゴルの映画を観たことがありますか?
僕は記憶が定かでは無かったので調べてはみたのですが、残念ながらどうやら今まで一本たりとも観たことは無かったようです。

ではモンゴル映画と言われて、どういう映画を想像しますか?
大草原、遊牧民、馬や羊、素朴な神話的物語、というのが僕の勝手な先入観が作り上げたモンゴル映画に対するイメージ。

つまり僕はモンゴル映画のことを全く知らないのです。この映画は僕のそんなステレオタイプな固定観念を完膚なきまでに打ち砕いてくれました。

ウランバートルで原子力工学について学んでいる女子大学生の主人公が、ふとしたきっかけでアダルトショップのバイトをすることに。そこで出会ったアダルトショップの女性オーナーとの交流で、女性としての、大人としての自我を確立していく。簡単に言えばそういうストーリーの映画です。

ウランバートルの街並みが非常に近代的で、インテリアもとても洗練されています。プロットとして性的な要素も重要なので、控えめではありますが性的描写もあります。保守的な風土を勝手に想像していたのでこれも意外でした。最初はヒゲもうっすら生えていて、内向的で垢抜けない女の子が、元バレリーナと思われる自由奔放で経験豊かなな初老の女性オーナーと様々な体験をして、最後にはとても垢抜けた女性になっていきます。

垢抜けない女子大生
女性オーナーとの交流で素敵な女性になっていきます

ただ一つだけ残念なことが。要所要所で登場するMagnolian(シンガー・ソングライター)が印象的な音楽でこの映画に魅力を加えていますが、なぜか彼の歌の歌詞が字幕にされていません。主人公の心象の描写に歌詞も重要な意味を持っているのものと推察されます。これはぜひ字幕を付すべきだったと思います。


この映画はモンゴル映画に対する僕の固定観念を徹底的に覆してくれたとともに、一人の女性が成長して行く様子をイキイキと描いた女性映画として、モンゴル映画という枠に嵌めずとも秀逸な作品だと思います。それはまた民主化30年を迎え、ソ連(ロシア)の影響下から逃れたモンゴルの新しい時代を象徴するものなのかもしれません。

注:女性オーナーが大切にしていたピンク・フロイドのLP「狂気」は若い主人公へと手渡されます。ピンク・フロイドはソ連崩壊直前にツアーを行なっていて、民主化のシンボル的な意味合いなのだと思われます。その思いは次代を担う主人公に託されたのですね。



第17回大阪アジアン映画祭薬師真珠賞、第21回ニューヨーク・アジアン・フィルム・フェスティバル・グランプリ



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