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僕の好きなアジア映画85: シスター 夏のわかれ道
『シスター 夏のわかれ道』
2021年/中国/原題:我的姐姐/127分
監督:イン・ルオシン(殷若昕)
出演:チャン・ツィフォン(張子楓)、シャオ・ヤン(肖央)、ジュー・ユエンユエン(朱媛媛)、ダレン・キム(金遥源)、トゥアン・ポーウェン、リャン・ジンカン(梁靖康)
中華人民共和国のいわゆる「一人っ子政策」は1979年から2015年まで実施された産児制限政策である。この映画に登場する男の子は6歳という設定で、映画の中の時代設定が何年なのかは定かではないのだが、「一人っ子政策」がまだ行われていた時代ということだと思う。しかし主人公の両親はどうしても男児が欲しく、先に生まれた姉(主人公)を障害者であるかの様に嘘の申請をしてまで男児をもうけた。主人公がスカートを穿いていると、(障害がないことがバレるので)両親に怒られてしまうという、理不尽な扱いすら受けている。
したがって主人公は親と距離を置くようになり、看護婦をしながら自力で医師を目指している。ところがその疎遠となっている両親が交通事故で急逝してしまう。
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余談だが、中国(というかこの映画の舞台の土地)では葬式で賭け麻雀をしちゃうんだなぁ。おどろいた。さて主人公は仕方なく養子に出す先を探しつつ、ほとんど会ったこともない弟の面倒を見ることになる。
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僕は子役の演技に耐えられない場合が多く、子役が出てくる時間が長い映画は苦手なのだが、本作のこの子の演技は素晴らしい。憎たらしいけどいじらしい。実に自然な感情が表現されていて、これは天才的です。
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だらしない、しかし実は最も人間らしい叔父を演じたシャオ・ヤンも良い味を出していた。
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さてこれ以上はネタバレすぎるので細かいところは留めておくが、自分の夢を叶えようとする主人公にとって、突如現れた弟の存在はそれを阻むものでしかない。自分だけで道を切り開いてきたという自負もある。しかし血を分けたただ一人の兄弟であることも認めざるを得ない。それ故に葛藤し感情を爆発させる主人公が実に生き生きと描かれている。最終的な彼女の選択は中国でも論争の的となったようだが、決断の方向性を問う前に重要なのは、彼女が弟に愛情を感じたかどうかに尽きるのではないか。ありきたりだが「血は水より濃い」のかもしれない。
映画は時に政治を映す鏡でもある。人権を無視した「一人っ子政策」という愚策を、新鋭女性監督イン・ルオシンが鮮烈に射抜いた秀作。
第34回金鶏奨最優秀助演女優賞、第16回長春映画祭金鹿賞最優秀女優賞、第19回華表奨最優秀女優賞
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