僕の好きなアジア映画107: THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~
『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』
2018年/中国/原題:过春天/99分
監督:バイ・シュエ(白雪)
出演:ホアン・ヤオ(黄尭)、カルメン・タン(唐以菲)、ジャオ・ガン(趙鋼.)、スン・ヤン(孫揚)、ソン・ヤン(宋洋)、ニー・ホンジエ(倪虹潔)など
過去に何回も同様のことを書いているのだが、僕のようなオッサンにとって、この映画の主人公のような女子高生あたりの世代は、何を考えているのか全く想像できない、一種の「怪物」のようなもので、最もコミュニケーションが難しく感じる「恐れ」の対象である。であるからして本作も?と思ったのだが、この主人公の行動や感情の流れは、オッサンが観てもよく理解できるものだと思う。
ストーリーを簡単に述べる。主人公は深圳に住んでいて、香港の学校に越境通学している。母親は麻雀に明け暮れ、父親は香港に別宅を持ち、少女は孤独な日々を送っている。彼女は親友と共に日本の温泉に旅行することを夢見ているが、先立つお金が足りずバイトに励む日々である。そんな中彼女が見つけたのはスマートフォンの密輸の運び屋だった。毎日の深圳と香港の行き来(通学)で怪しまれることが少なく、簡単に大金が手に入るため、彼女はその犯罪組織に巻き込まれていく。ネタバレはここまで。
この年代は、自分のしたいことのためには少しも厭わずに「冒険」をしてしまうことがある。自身の行動に特に罪の意識もなく、彼女にとっては友人との夢を叶えることが最も重要である。そういう世代の孤独な少女の気持ちの動きが、実にヴィヴィッドに描き出されている。結果として彼女の春は、その行動によって過ぎ去ってしまうことになるのだが。
さて原題は『春を過ごす』の意味のようだが、邦題は『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』。少なくともこれは一義的には青春映画であって、中国本土と香港の関係は現実的問題として存在したとしても、物語としてはあくまでバックグラウンドだと思う。そしてこの邦題も観るものに誤解や先入観を与えてしまう懸念がある。中国と香港の微妙な政治的状況を背景にしていても、決して過度に政治的なフィルムとは言えないと思うのだ。ポスターのコピーもどうもそういう方向に誘導しているように感じてしまう。
監督はこの映画がデビュー作というバイ・シュエ(白雪)。美しい映像にも大いに魅了された。少女の刹那の「春」を実に眩しく捉えていると思う。
第14回大阪アジアン映画祭来るべき才能賞、第43回香港国際映画祭ヤング・シネマ・コンペティション部門ファイバー賞受賞/最優秀女優賞受賞、第19回中国語映画メディア祭最優秀新人監督賞受賞など