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診断系樹木医の活躍の場と、必要な素養とは?(2)
筆者経歴
緑化コンサル 兼 樹木医。園芸・造園系の大学で学び、現在は行政やインフラ企業の緑化を支援する。/ 街路樹、公園、庭園などで樹木の点検・診断を行い、業務を監督してきた経験からこの記事を書くことに。ちなみに初めて樹木診断を行ったのは上野公園。
この記事が有益な方
・樹木医を仕事にしたい方
・診断系の樹木医業務に就きたい方
この記事の目的
前回は、第一部として、国交省登録資格制度に「樹木医」が登録されたという話題を起点に、インフラとしての樹木の安全点検、樹木医に求められること、そして診断・点検を専門とする樹木医が活躍できる公共案件の例を紹介しました。
今回の第二部では、点検・診断の専門家の視点から樹木医教育の制度的課題について触れ、最後に、オススメの専門教育と、この分野で一流の樹木医になるためのモデルフローを簡潔にご紹介します。
3.樹木医教育の制度的課題(点検・診断系)
3-1.樹木医≠点検・診断の専門家
今回指定された樹木の点検・診断を人間の医療に例えると、整形外科や健康診断にあたります。人間の医者であれば、医学部で基礎医学の学習と臨床実習を行い、国家試験合格後に2年間の初期臨床研修(義務)、整形外科専門研修を受けます。さらに整形外科専門医と認められるには、専門医試験に合格する必要があります。人間の場合、専門医になるには体系的なプログラムを段階的に修めていく必要があります。
一方、樹木医制度を見ると、樹木医試験では、樹木の力学、倒木や落枝事故、腐朽(木の腐り)の原因となるキノコの判定といった、点検・診断に関する問題はほとんど出題されません(以前、過去16年分の試験問題を確認したところ、点検・診断に相当する「樹木の総合診断分野」の出題は1%以下、剪定や移植を含めても約5.5%でした)。
また、試験合格後の樹木医研修でも、点検については簡単な紹介にとどまります。このような状況ですから、樹木医資格取得時点では、点検・診断の知識についてほぼ問われていないのです。さらに、樹木医資格取得後の体系的な専門研修についても、これまで存在していませんでした。
こうした理由から、点検や診断業務に携わりたい者は、同様の業務を行っている先輩(以下、指導的技術者)を自分で探し出し、補助者として研鑽を積むという、徒弟制度的なルートをとってきました。筆者周辺では、この段階になって初めて、点検・診断について学び始める人が多いと思います。しかし樹木医である以上は、こうした研鑽を積まず、マニュアルを頼りに診断や点検業務を請け負うことも可能であり、実際にそのように考える樹木医もいました。
このような教育制度ですから、樹木医なら当然に適切な点検や診断ができるというわけではないのです。
3-2.研鑽の機会を得るのも難しい
さらに、研鑽を積みたくても指導的技術者に出会いづらいという問題があります。樹木点検・診断業務は発注数が少なく、発注元も一部の自治体に限られているため、経験を積んだ樹木医の数が少なく、地域も偏っているからです。
例えば、都市樹木を対象とした診断の知識と経験を有する者(つまり、街路樹の点検・診断の専門家)として認定される「街路樹診断士」の保有者は、2020年現在に210名しかいません*。このうち、日常的に実際の現場で活動しているベテランは何人いらっしゃるでしょうか…。
また、指導的技術者に出会えたとしても、あなたが一人親方やフリーランスでない限り、一緒に働くにはハードルがあります。というのも、業務発注数の少なさから、樹木点検・診断業務だけを行っている樹木医や企業は少なく、大半は施工管理や植木職人としての業務も並行して行っているからです。そのため、彼らの下で常勤で働く場合、つまり、雇用関係を結ぶ場合は、あなたもそれらの仕事ができることが前提での雇用になるでしょう。
近年は診断系業務が増えているので、診断専門の部署や担当がある企業も存在しないわけではありませんが、筆者の経験上、その数は少ないです。またそれらの企業も、社内に樹木医を抱えているというよりは、案件ごとにフリーランスの樹木医を召集している事例が散見されます。
こうしたことから、指導的技術者のもとで多くの研鑽を積みたいのであれば、弟子入り先の事前調査と、自分ができる働き方を検討しておく必要があります。
一方で、任意の研究会で研鑽を積む方法もありますが、技術的に信頼できるコミュニティかどうかが外部から判りにくく、また研修形式のため実際の業務とは異なる点もあります。
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4.点検・診断が出来る一流の樹木医になるには
4-1.オススメの専門講座・資格
ここまで樹木医の専門教育制度や指導的技術者との接点について、問題点を指摘しました。とはいえ、こうした話は徐々に過去のものになりつつあります。任意参加ではありますが、専門教育が講座として体系的に提供されるようになり、内容も充実してきたからです。
以下に、点検・診断の専門教育課程として信頼できるものを2つ、簡潔にご紹介します。各講座の紹介URLを貼っておきますので、詳細はそちらをご覧ください。
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