過疎地住まい2年目夫婦が思うこと。
ゲストハウス開業から三年目、今ようやく向き合えること。
2023年になってから、夫は去年の秋口から通っている週末大学院の授業が大詰めになり、私もひそかに始めている新しい試みへの準備などで、割と密度の高い時間の過ごし方をしてきた。どちらの取り組みも、「私たちの住んでいる岩瀬地区の過疎化について」を避けて通ることができず、夫婦なりの現時点での解を探しているところでもある。
ここ、須賀川市岩瀬地区へ越してきたのが2020年はじめ頃。そこから丸一年と3カ月をかけてゲストハウスの開業準備をし、翌2021年4月にグランドオープンの運びとなった。
引っ越してきた当初は宿の開業のために一生懸命になっていたし、オープンした初年度は運営に慣れるのと併せて、世界中の皆が初めて経験したコロナとの付き合い方に精一杯な年となった。二年目の2022年を経て今、ようやくここでの「宿運営」と「暮らし」の両方に慣れてきて、日々の生活を落ち着いて送れるようになってきている。
2022年、私たちの地域が「過疎地」に認定されてから。
昨年、私たちの住む岩瀬地区が「一部過疎」というものに認定されてから、そのことについては夫婦の間でもでもたびたび話題にしてきた。岩瀬に引っ越してきてからの二年間で、この地域の魅力をたっぷりと感じていた私たちは、どうしたらこの岩瀬村の良さを外の人に伝えられるだとろうということを真面目に考えていた。NafshaのWebに記事を書く?Instagramで発信する?メディアに出てみる?イベントをやってみる?…etc. そのすべてに挑戦してきたが、一生懸命になればなるほど、同時にどこかしっくりとこない違和感が私たちの中で大きくなっていったのだ。
どこか行き詰まった感が出てきた昨年の暮れ、大学院での卒業プレゼンを「岩瀬村の過疎化について」を選んだ夫が、ぼそっと言った。
「そもそも過疎化って、問題なのかな?」
それまで躍起になって「人に来て欲しい」「そのために発信しなければ」とさざ波を立てていた私の心が、すーっと落ち着いていくのを感じた。
「そっか。そもそも私たちって、外からたくさん人に来てもらいたいと思っていなかったんだ。」
その時はじめて、抱えていた違和感の正体を知ることができたように感じた。
過疎地だから不幸せ?いやいや「豊かさ」について考えてみようよ。
地元の人たち皆、私たちと同じように感じているかは分からない。
国からオフィシャルに「過疎地ですよ」と認定されてしまったのは事実だし、それもこれまでの過去25年間で人口減少が23%以上、財政力指数が0.64%以下という、これまた揺るぎようのない事実に基づいてなされている。私たちの地域が過疎地であることは、間違いない。
ただし人口減少と財政力低下だけが、その土地に住む人の幸福度を決定するとも思えないのである。事実、岩瀬に暮らす人たちが日々「おらいんとこは貧乏だ~。ああ辛い。」と言って生活しているわけではない。もちろん若い層を中心に人口が減少しており、過疎化+高齢化というダブルパンチによる将来的な不安はあるだろう。でもだらかと言って、それらが直接的な不幸の要因になるとは言い切れないのだ。
つまり私たちは今、「豊かさって何だろう」を真剣に考えなければならない局面に来ているのだろうと思う。過疎地という現実と、それに伴う現実的な不都合(足問題、医療サービス問題、小売店や飲食店の少なさ、出店のしにくさ等)は当然、受け入れなければならない。しかし“豊かさ”とは、それとは別個に考えるべきテーマなのだ。
地域に住む高齢者やほかの世帯がどうかは置いておいて、まず私たちは「自分たちがここで感じる豊かさ」について、考えてみることにした。自然の豊かさ、ほどよい田舎感、都市部とのアクセスの良さ、食べ物のおいしさ、静かな住環境、澄んだ空気…。控えめに言って、桃源郷である。
しかしこの桃源郷に何の不満も感じていないかと言えば、嘘になる。近くに日用品を買えるスーパーや小売店はほぼゼロ、飲食店は2件程度でカフェはない。地域の特性か、田舎と言っても特にご近所付き合いがあるわけでもなく、新参者にやさしい環境とは言い難いし、高齢者が走らせる車だらけの公道は、ヨロヨロ運転の危なっかしさで溢れている。
しかし、である。
これらの不満は、工夫次第である程度解消可能なのではないだろうか…?
不満の種は、工夫次第で除けるかも。まずは自分たちで実践してみる。
近くに店がないなら、つくればいい。希薄なご近所付き合いも、もう少し気軽に行ける場があれば、そこで挨拶くらいはできるかもしれない。田舎のライフラインである免許の返納を余儀なくされた高齢者も、歩いて(あるいは自転車)で通える範囲であったら、外出の機会を奪われないで済むだろう。買い出しついでに茶を飲んで、ひと言くらいあいさつを交わして。そんな場が小さくともあれば、先に挙げた私たちの不満なぞは、ほとんど解決されてしまうのではないだろうか。
これは、去年までの「どうやったら人に来てもらえるか」という発想とは真逆のものだ。「私たちのとこ、こんなに魅力的ですよ~」と声を荒げて主張するのではなく、まずは私たち自身の“足元の満足”を考える。ここ岩瀬が素敵な場所であることは間違いないので、その魅力をより一層楽しむための工夫を、まずは自分たちで実践してみる。そうしてここにいる私たち自身が、真っすぐに「楽しい!」と思えた時にようやく、その魅力が周りにもおのずと伝わっていくように思うのだ。
私たちにとっての“豊かさ”への解は、現時点ではこのようなものである。
そのために今年一年は、動いていきたい。
21JAN2023
guesthose Nafshaオーナー
佐藤美郷
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