漫画『星旅少年』が最高に好きなので紹介させてください【ブックレビュー】
なんとなく表紙が気に入って手に取った本、それが『星旅少年』でした。
普段ほとんど紙の本で漫画を買わないし、ましてや前情報なしのジャケ買いなど初めてだったのではないかと思います。
(少し内容の話をしていますが、大切な部分のネタバレは避けています。安心して読んでください)
☆ たくさんの素敵な言葉たち
この漫画の主人公、303が言った台詞
この言葉がとても好きです。
たしかにそうだと思う。
「いいよね」だけでは残っていかない。
不便なものは使われなくなる。そして失われていく。
そこに価値を見つけ、各々が残していこうと思わないと残らない。
カセットテープ・フィルムカメラ、私自身が使っているものでもそういうものがあります。
不便だけれど大好きだし大切にしたいと思っています。
☆ 魅力的に描かれる建築・インテリア
また、この漫画では建物が魅力的に描かれます。
アイソメトリックに近い緩やかなパース、シンプルな線で描かれた建物は構成がわかりやすく気持ちがいい。
そして、いろいろなものがところ狭しと置かれた空間は見ていてとても楽しいです。
2階やロフトへはシンプルでソリッドな階段(メキシコの建築家、ルイス・バラガン自邸の階段のよう)か直線状のはしごで登ることが多い。
形状にこだわりを感じる。手すりはない。
建物の外観は飛び出したり引っ込んだり、いびつな形状だけどなぜかバランスがとれているように見える。そしてなんと言ってもかわいい。
著者の坂月さかなさんの作品集『プラネタリウム・ゴースト・トラベル』ではこうした魅力的な建物のイラストもたくさん描かれています。
個人的には内部に川が流れている図書館がとても印象的で好きです。
ここでは船を使って本を取りにいきます。
図書館や本屋さんの本棚を『島』と呼ぶが、まさに分類ごとに島に本棚が並んでいます。
この図書館がある星では月がみっつ浮かんでいてガラス張りの屋根から夜でも光が差し込みます。
『月の光で本を読む』という誰もが憧れるあれです。
本を読んでて眠くなったらいつでも仮眠できる寝床が用意されています。(はしごや階段を上った少し高いところにあります)
図書館に水やガラス張りの屋根という通常では避けられる要素を常識にとらわれずに取り入れていて、それがとても魅力的に描かれています。
もちろん現実的には難しい部分もあると思うが、私も建物を設計するものとして、常識にとらわれない発想を大切にしていきたいとこの話を読む度に感じます。
☆ 『星旅少年』の美しい世界観
さて、今更ですがこの漫画の世界観を少し説明させてください。
この世界には『トビアスの木』という木があります。
そして死という概念はありません。
人は体内に蓄積されたP-TOT(トビアスの木の毒)がその人の許容値を超えると体内から発芽して、やがて覚めない眠りにつきます。そしてルビーのような宝石(トビアス)がなる木となります。
人々はそれは少し悲しいけれど仕方ないことだと思い、暮らしています。
とても静かに街や星が眠りにつき、徐々に文明が失われていきます。
それらをアーカイブしていくのが主人公303の仕事です。
文明を守るのではなく、ただ失われそうなものをアーカイブしていく。
アーカイブしていくのは大体些細なものたちです。
やがてすべての星が眠りについてしまうようなこの物語。
だが、その痕跡は残るのでしょう。
人の記憶や歴史はとてもくだらなくて切なくて、優しいものです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
それではみなさん、Good Midnigt!(恥ずかしい…)
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