お気に入りの図書館が近所にある暮らし
読書欲がすごい。本が読みたくて仕方がなくて、本を買ったり借りたりしては、食いつくように読んでいる。公園や鴨川沿いで本を読む幸福を知ってから、本を読む手が止まらない。
そんな楽しい気持ちで読んでいるからか、最近、「この人の書く文章が好きだなぁ」という本に巡り合う確率が高い。引き寄せているのかもしれないと思うほどに。
いまは、滝口悠生さんの「長い一日」と、森田真生さんの「偶然の散歩」が気に入っている。小説でいえば、何か特別な事件やゾワゾワするような展開がなくても(もちろんミステリーは好きだけど)、ただ誰かの日常を覗いてるような気分にさせてくれるお話が好きだ。それでいうと「長い一日」は面白かった。最初エッセイかと思ったほどに、主観が入っていて、引き込まれた時には「あ、こういうことか!」と驚かされた。スーパーオゼキについての愛を語るのに何十ページも費やしていたのも、なんだか人のリアルを見ているようでよかった。
一方、「偶然の散歩」は、息子との散歩や日々によって新たな視点で物事を眺められた、ということを哲学的なあるいは数学的な視点で綴ったエッセイ。普段当たり前のように送っている日々のなかに、小さな子どものまっさらな姿勢が混ざり合い、普段なら見過ごしてしまうようなささいなことに気づかせてくれるお話。忙しいと、ついささいなことを気づかずに通り過ぎてしまうけれど、子ども的な視点で偶然な出会いをいつまでも楽しんでいたいなぁと思えた一冊だった。
本との偶然の出会いを楽しんでみる
この2冊に出会ったのは、はからずとも偶然だった。図書館で、なんとなく背表紙の感じに惹かれて手に取ってみた。試しに読んでみると、これが面白い。
図書館のよさは、この気軽さにあると思う。もしこれが「本を買う」だったならば、「この本面白いか分からないから、迷うな」と手にとらなかったかもしれない。けれど図書館の本であれば、「この本面白いか分からないけどとりあえず読んでみよう(面白くなかったらそのまま返却すればいいだけだ)」と、読んでみるまでのハードルが下がるのがいい。そうやって偶然に出会った本が、思いのほか面白かったりするものだ。その偶然の出会いまでのハードルは低ければ低いほど暮らしが豊かになる気がする。
暮らしを彩る図書館との出会い
私は、お気に入りの図書館に出会えたことで、いまの暮らしがより豊かになったのだと信じている。よく行く京都市右京区中央図書館は、自転車で20分以上かかるのだけど、大好きな図書館だ。
まず、本の多さ。近所の小さな図書館よりも図書館自体が大きく(中央図書館なだけある…!)、けれども高齢の利用者が多いからなのか、私が読みたい本が予約なしでもすんなり借りられる。毎回毎回10冊近く借りて、自転車のカゴを本でいっぱいにして帰るのは、本を読めることと同じくらい嬉しさで満ち足りた行為のように思う。
さらに、右京区中央図書館の好きなポイントは、屋外のテラスがあるところだ。「屋外読書テラス」と名付けられたテラス(もう名前からして最高の響きだ)へ出れば、京都の西側の山々が見渡せる。
かわいらしい木の椅子が用意されているので、新しく借りていますぐにでも読みたい本を、実際にホクホクした気持ちで読むことができるのである。自転車のカゴに本を10冊積んで、その重たい状態で20分以上自転車を漕ぐのは楽なことではないけれど、お気に入りの場所だからこそ、軽やかに行けてしまうのだと思う。私のいまの京都での暮らしを語るのに欠かせない梅小路公園と同じくらい、右京区中央図書館は私の暮らしをまぎれもなく形作っているお気に入りの場所だ。
街のよさは、図書館の居心地の良さに現れるのではないか
かつて、日本中の街を巡る多拠点生活をしていた時があった。名前を聞いたこともない街へ降り立ち、暮らすように旅をしていた日々。そんな時にも、無意識に図書館へ立ち寄っていた。街のよさは、図書館の居心地の良さに現れるのではないか、とさえ思うほど。居心地の良い図書館がある街に出会うたび、「ここで実際に暮らすと、どんな生活ができるのだろうか」と妄想を広げていたことを覚えている。
岐阜市立中央図書館 みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜県)
生まれ育った岐阜にあるメディアコスモス。大学受験の時は近くの県図書館で勉強していて、数年経ったあとに作られて悔しい思いをした記憶がある。とにかく、メディアコスモスは、空間がいい。天井や本棚が丸みを帯びていて柔らかな雰囲気。オレンジ色の光が漏れる空間は、その空間に身を寄せているだけで優しい気分になれそうだ。夜、周囲が暗くなってから、図書館内だけがオレンジの光に包まれる姿も好き。岐阜に帰ったら時々立ち寄る大好きな場所です。
須賀川市中央図書館(福島県)
須賀川市、訪れるまでは名前すら知らなかった街だったけれど、素敵な図書館があることで一気に好きになった場所。駅から少し歩いた場所に「tette」という市民交流センターがあり、その中に図書館が入っている。旅先の図書館に行くと、なんだか気持ちがすごく落ち着く。須賀川の図書館は、とてもおしゃれでシンプルで、机がたくさんあって。居心地のよさが抜群だった。
特に気に入ったのはテラス席。テラスからは須賀川の街並みを見渡せて、この街に何かの縁で訪れている不思議を思う。訪れたのは外で本を読むのにふさわしい5月で、須賀川にいた4日間、毎日通うほどのお気に入りの場所になった。
武雄市図書館(佐賀県)
本棚が湾曲してずらりと並ぶ姿が美しくて、SNSで少し話題の武雄市図書館。1階は吹き抜けになっているから、図書館特有の閉そく感がなくて、ワクワクするような空間だ。
1階にスターバックスがあって新刊はコーヒーを頼めばその場で読めるし、もちろんカードがあれば図書館の本を借りられる。本が生活の身近に存在しているような気がして、なんだか武雄市民は羨ましいなと思った。つい立ち寄りたくなる図書館がすぐそばにある暮らし、理想だなぁ。
神戸市立西図書館(兵庫県)
神戸の西側、西神中央駅からデッキで繋がる図書館。2022年に新設されたそうで、私はまさに2022年の心地よい秋晴れの日に訪れた。シンプルでスタイリッシュな図書館は、図書館というよりもおしゃれな本屋さん、という感じ。窓際の席に座ってぼーっと外を眺めていたのが懐かしい。
もし、次にどこか違う街へ引っ越す時がきても、お気に入りの図書館が近所にある暮らしがしたい。その場所にいるだけで、本棚に並ぶ背表紙を眺めているだけで、少しだけ元気をもらえるような。日常と地続きでずっとそばにいてくれるような。図書館に足を運ぶだけで私は救われた気持ちになれるのだから、これからも自分で暮らしを豊かにしていけるはずだ、と信じて。