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どうでもいい思い出と音楽
思い出と音楽はリンクする、と信じている。あの音楽を聴いたら、ふわっとあのときのことを思い出す。あの音楽を聴いたら、あの感情がもう一度戻ってくる。一瞬であのときに戻ることが出来る。そんな話。
"あの気持ち”を思い出す
9月に久しぶりに音楽フェスに行く。大学生の頃から行っているお気に入りのフェスで、ビーチにステージが設置されて、海を見ながら音楽を聴ける最高な空間。
今回出演するアーティストはこんな感じ。今すごい好きなアーティスト、というよりは、かつてのあのときに本当によく聴いていた、という懐かしいバンドか多い。
予習がてら、何年かぶりに聴いてみた。すると、本当にあのときに一瞬で戻れたのだ。
あのとき。それは自転車で25分もかかった最寄り駅から大学までの道のり、とか、飲みに行った後にほろ酔いで歩いた夜のあの町、とか、人生初めてのバイトに行くときのすっごく憂鬱だった気持ち、とか。そんなもの、普段はまったく思い出さないのに。
(バイトの憂鬱な気持ちをなんとかごまかそうと行きの電車でよく聴いていた)
(自転車をこぎながら、夕暮れの町を駆け抜けていたなあ)
(恋人や友達と飲んだ後にふらふらっと帰った夜道を思い出す)
音楽は、不思議だ。本当に引き戻されてしまう。本当にそこにいたかのように。そのときの自分に出会えてしまうように。そして、それは本当にどうでもいい思い出だったりする。たとえば、本当に嬉しかったこととか、本当に悲しかったこととかは、そのときの思い出のハイライトとしてよく覚えているけれど。
音楽はそんな一大事とはまったく別の視点で、ささやかな感情やそのとき確かにいた私を思い出させてくれる。その音楽を聴くまでは、まったく忘れていたというのに。
ときには、こうやって強制的に思い出すことを拒否したくなる思い出もある。そんなことを思い出すのに引き金となるであろう音楽は、私から封印して、意識的に聴かないようにしてしまう。
(この曲がどうしても聴けない。今度のフェスで聴けたとしたら、どう感じるのだろう)
音楽の威力は、すごい。だからこそこうやって好きな曲だったのに封印して一切聴かなくなる曲もあるし、何年後かに決心して開封したりもする。それくらい、そのとき聴いていた音楽、は私の生活に大きく影響している。
ちなみに、このnoteは私のお気に入りの立ち飲み屋さんで書いているんだけど、店内のBGMが2016年のヒット洋楽のプレイリストで。またふいに、フィリピン留学をしていたとき、授業終わりに学校の隣のコンビニでダラダラと飲んでいたこととか、好きな人と2人きりになる勇気はなくて6人ぐらいのグループでいつも飲みに行っていたこととかを思い出す。本当にどうでもいい、ささいなことなんだけれど。
(一気にあのけだるいフィリピンの夜の空気感に引き戻される)
思い出させてしまうくらいの、音楽と思い出の強い繋がりを認めざるを得ない。
そんなことを思いながら、5年6年ぶりに聴く音楽に耳を傾けてみる。この音楽の、この歌詞に胸を打たれる、「あーこの気持ち」って思い出す。
思い出さなくても、全然いいんだけど。それでも本当に忘れていたことを、たとえると、記憶の海の底にあったものをすくい上げる感覚で。思い出すきっかけがなければ、一生思い出すことはないかもしれない。でも、音楽が、記憶の底から引っ張り出してくれる。
こうやって、思い出さなくても全然生きていける思い出たちを纏って生活していると、やっぱり思い出すのはいいな、と思う。むしろ、思い出してしまうのがもったいないような。ときには、思い出したくもないけど思い出してしまったなあと思うこともある。
けれど、結局はもう一生思い出すことはないはずの思い出や感情を、たった1曲を聴くだけで一瞬で思い出すことが出来るのは、やっぱりすごいこと。
そんなふと思い出して、何年後かに懐かしく愛おしく思える思い出をたくさん作りたいし、そんなことを思い出せるような大好きな音楽をたくさん聴きたい。音楽と思い出がリンクすることを信じて、これからも愛おしい思い出と、大好きな音楽をたくさん積み重ねていきたいね。
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