大人の追いかけっこ
気分が乗ったのでイヤホンつけたまま駅から私、走り出した。両手を広げてTの字。肩にかけたカバンぶらぶら。その姿はDr.スランプアラレちゃん(23)。
タッタッタッタッ
いつもはちょっと走ったら飽きて歩いちゃうんだけど、なんだか今日は止まる気にならなくてそのままずーっと走った。
(縺ィ縺セ縺」縺ヲ繝シ〜!)
ふと、後ろからすごい呼ばれてる気がして振り返った。
顔真っ赤にしたサラリーマンがこちらに向かって走っている。
あ、まさか。
「これ!」
手の中に私のイヤホンケース。
あ、これダウンのポケットにしまったものだ。
「あぁぁぁありがとうございます!すみません!ありがとうございます!」
「いや、ほんと、、ハー 他に、、なんか、、ゼェ 落としてない? ハァハァ だ、いじょうぶ?」
灰色のスーツの上着をプロデューサー巻きにした白シャツのお兄さん、
息も絶え絶えで聞き取りづらいが、何か優しい言葉をかけてくれている。
が、笑いを堪えられず息絶え絶えの私も、
その言葉を聞き取ることができない。
しばらく、吐息8割、声2割くらいの会話をした後、
共に夜の駅前を颯爽かつヒィヒィと駆け抜けた私たちは互いを称え合うかのようにハイタッチをして別れた。
パンッ
「じゃ、またな!」
「はい!ありがとうございます!」
きっと、もう2度と会うことはないが。
2人の間に少し冷たい青春の風が吹き抜けていった。
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