松峰みり
私は学生時代、吹奏楽部に所属していた。 担当は打楽器。打楽器の役割とは何か、と考えた時にパッと思いつくのは二つ。一つはリズムキープ。もう一つは効果音。 一つ目は説明するまでもないと思うので、二つ目についてちょっと考えていたことを書いていきたい。 打楽器と一括りに言ってもメロディを奏でられる鍵盤楽器も存在するから一概には言えないのだが、基本は脇役、というより最早装飾である。 ある時、技術指導のコーチが言った。 「打楽器一発で曲は壊せる」 私の中で考えられるその言葉の意味は
チャプチャプとバケツいっぱいの中身が揺れる。身体を上手いこと傾けて、溢れないように歩いていく。 校舎の北側に位置する廊下はキンと冷たい。しかし、すれ違う生徒たちは気怠そうな緩みきった表情を浮かべていた。 あちらこちらの教室から机やら椅子やらを動かす音が聞こえる。 十二月二十五日。クリスマス、終業式、年末年始。 そんな浮かれた生徒たちがやらされているのは、学期末の大掃除だ。ガタガタという音を掻き消すような大きな喋り声が聞こえるあたり、皆考えることは同じなようだ。
「考え直さないか」 絞り出されるような男の声が、冷房の効いた部屋の中に響いた。 男の前に座る少女は、その様子をまっすぐな目で見ている。 「藤崎、お前がいないと困るんだ」 どうにか縋ろうとする細身の男に対し、藤崎と呼ばれた少女は微笑みながら、しかし、はっきりと首を振った。 その凛とした雰囲気は崩れることがなく、頭の動きについてくるようにポニーテールが左右にゆれる。藤崎は「安住先生」と小さな声で男に語りかけた。 「部活動を辞めることは、生徒の自由であるはずです」
誰も見ていないテレビが主婦向けバラエティー番組を垂れ流している、午後四時半。おやつの煎餅をかじりながらパソコンとにらめっこする私の隣で、祖母がしわくちゃの手で棒針を動かしていた。鮮やかな赤の毛糸が見事に混ざりあって何かが織り上がっていく。 「何編んでんの」 下を向いた頭に問いかけると、祖母は針を動かしながら口を開く。 「チョッキよ」 チョッキって。久しぶりに聞いたその古いワードに心の中で突っこむ。よく見てみると、編んでいるのが肩の袖口の曲線部分だとわかって、もう
私には今、周りに私のことを名前で呼ぶ人がいない。 友人は大体名字から取ったあだ名か、名字をそのまま呼ぶかだ。仕事中は普通に名字+さん付け。家族も私のことをあだ名で呼ぶので、ストレートに私の名前を呼ぶ人がいない。 そして、インターネット上では「みり」と名乗っている。至る所でこの名前を使っている為、「みりさん」と呼ばれることにもすっかり慣れてしまった。 周りが自分のことをなんと呼ぼうが構わないのだが、そのせいか、私は今奇妙な感覚に苛まれている。これをどうにか解決したい。
それはほんの気まぐれだった。 模試の関係で授業が早く終わった。 まだ午後三時半。いつも部活だとか、委員会だとかで夜八時近くにならないと家に帰れない私は、久々に一緒に住んでいる祖母とおやつを食べられる、と少しご機嫌だった。少し浮かれていた私は、ふといつもの通らない道を通って帰ろうと思い立ち、いつも真っ直ぐ行く道を右に曲がった。 思えば、高校に上がってからはこっちの道には殆ど来ていない。家から数分の道でも少し見ないだけで変に懐かしく思えるんだなぁなどと暢気にス
青い傘の占い師・志彌さんが私についての記事を書いてくださった。 https://note.com/shiroyukimin/n/n0d1f48da2c01 志彌さんは私のことを「献身的」と評した。圧倒的相手目線で物事を見れる人だと。 はて?そうだろうか? というのが私の最初の感想である。志彌さんの占いを疑っているわけではなく、自分から見た自分と他人から見た自分は乖離があるということなのだろう。だが、私は自分のことをこの上なく自己中心的な人間だと思っている。多分、か
今更ながら、去年11/24 文学フリマ東京に初出店した時のドタバタレポートをここにまとめてみたいと思います。 文学フリマについて文学フリマとは、オリジナルの文学、「自らが〈文学〉だと信じるもの」を中心とした作品を出品できるイベント。東京だけでなく、全国各地で開催しています。 最近は出店数も増えているので、申込を考えている方は早めをお勧めします。 https://bunfree.net/ 1. 原稿使用ソフト:Microsoft word、Adobe pdf、Phot
私は死にたかった。半年前の話だ。 何故そうなったかという理由は色々と複雑だし、他の人からすれば「なんだそんなこと」と思えてしまうようなことなので、語ることはしない。ただ私は、死にたかった。 結果としては死ななかった。死ねなかったんじゃない、死ななかった。 「死にたい」と口に出した時、「そんなこと言って、結局お前に死ぬ勇気なんかない」と言われた。その通りだ。その通りだが、当時の私は本気だった。家に紐状の物がなかったので、ホームセンターに買いに行ったし、ぶら下がれそうな橋を
「あなたが普段何してるか全然わかんない」 この前、バイト先の友人に言われた言葉だ。これを言われた時、私はすぐこの言葉に納得がいった。納得がいったのがむしろ不思議だった。 それはなんでだろう、と少し考えてみたのでよろしければお付き合いください。 さて、私が普段何をしているかといえば、漫画を読む、投稿サイトで小説を漁る、Twitterをする、など。ちなみに、私はそれを友人に言ったことはない。 勿論、「趣味はなんですか」と聞かれれば、「漫画を読むことです」と答える。でも、ど
思えば、私は占いというものに全く触れてきませんでした。私の中で偏見があったからだと思います。 ですが、参加させていただくようになった文芸サロン「青い傘」に占い師さんがいらっしゃいまして、すごく評判が良い。つい好奇心が抑えられなくなって、軽い気持ちで占いをお願いしてみました。 占っていただいた志彌。(ゆきみ)さんのプロフィールはこちら。 https://lovely-snow.com/profile/ 時のマヤ暦から占っていただく方法です。 赤い月 4 / 白い世界
雨が止んだ。 人々は歩みを止めて空を見上げた後、それぞれの傘を閉じて何事もなかったかのように再び歩き出す。わたしは慌ただしそうに動き始めた大人たちにぶつからないように道の端まで避けると、古い駄菓子屋の軒下に入った。 小さな手に不釣り合いな、大きな白い柄。 いつも持っている色とりどりの水玉模様が描かれた小さな傘とは違う、飾りが何もない大きなビニール傘。勝手に傘立てから取ってきた、お父さんの傘だ。 空はすっかり明るくなっていたが、なんとなくそれを閉じてしまうのが勿体なく
考え続けていたら言葉がまとまらなくなって、果てには自分が考えてることすら分からなくなった
アルバイト先の同い年の友達が辞めた。 理由は、職場の人間関係に嫌気が差したからだと言う。 彼女はいつも冷静で、物事をよく見ている子だった。いくつか他の職種も経験してきたという彼女は、この職場が他と違う部分が多く魅力的だったと語った。単純に時給が良く、もう慣れたからという理由で続けている私にとっては新鮮な意見であったし、いかに自分が何も考えていないかを思い知らされた。 きっかけは、ある土曜日の閉店後のことだった。 業務中、彼女と同じ業務に入っていた社員同士が仕事上の問題で言