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書評:ジプシー・ローズ・リー『Gストリング殺人事件』(柿沼瑛子訳、国書刊行会)―ストリッパーにだって書けるの
普段は読まないミステリーについて書評を依頼されたときは不安でした。まったく勝手がわかりません。ミステリーなのだからネタバレは厳禁。ミステリーにもいろいろ流派?があるでしょうから、他の作家との違いに言及できればよいのですが、なにしろ読まないのでわかりません。とりあえず読んでみるしかない、と読み始めたら、時代背景や舞台設定が面白くてミステリーとは別の側面に惹かれました。タイトルもインパクトありあり。
「Gストリング」と聞いてギターやバイオリンの弦を思い浮かべた方はおられるでしょうか? ロック音楽が好きなわたしがそうだったのですが、実は、バーレスク劇場のストリップティーズと呼ばれるショーでパフォーマーが身に着ける極小アンダーウェアのことです。日本では「Tバック」のほうが通りがいいかもしれません。
1941年初版の原作は、当時の人気パフォーマー、ジプシー・ローズ・リーの作品ということでベストセラーとなり、映画化もされたそうです。ミステリー小説としてだけでなく、当時のバーレスク劇場を知る上でも興味深く、たとえば、『黒と茶の幻想』をハミングしたとか、『ラブ・フォー・セール』を歌う予定、のようにショーの演目、演奏曲、人気TV番組やスターの名前などが次々と出てきます。
現場を知る著者ならではのエピソードが盛りだくさんで、舞台裏をのぞき見するようなワクワク感がありますが、一方で、社会の周縁に生きる人々の声が聞こえてくる作品です。「ストリッパーには知性がないという人がいる。だから書くのかも」というリーの言葉を知ると、さらに作品の重みを感じます。
“People think that just because you’re a stripper you don’t have much else except a body. They don’t credit you with intelligence,” Gypsy later complained. “Maybe that’s why I write.”
今回、いろいろ調べているうちに俄然、リー本人に興味が湧いてきました。また、新訳による生き生きとした会話が魅力で、たとえば、舌足らずな話し方の英文はどうなっているのだろう? と原文に当たり、翻訳の勉強にもなりました。それはまた別記事で書こうと思います。
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