潔癖症がスタンダードになった日。
・帰ったらまず手を洗うし服も全て着替える。外から持ち帰った物やバッグは所定のスペース以外には置かない。
・つり革や手すりには極力つかまらない。もしつかまったら、手を拭くか洗うまでは自分の持ち物に触るのを控える。
・どんなに重い荷物でも決して床に置かない。映画館でもバッグは必ず膝の上。
新型コロナ対策……ではないです。上記は、中学生からこちら数十年運用しているマイルール。
の一部。
勝ち誇っているのではないです。ただ、感慨深い……。
そもそも、私が「潔癖症」というのに当てはまるのかどうかも怪しいものだけれど。拘らない部分はとことん大雑把だし、性格もズボラ。コーヒーのマグカップはまた同じコーヒーを飲むことが判っているいるから都度洗ったりしないし、トイレ掃除だって汚れたら仕方なくやるくらい。洗面所の排水口も詰まらせがち。
けど客観的に見ると、どうもそういうことになるらしい。潔癖症。
いつ始まったことなのか。小学校低学年にはもう散々母から言われていた。「神経質」という表現ではあったけれど、大体同じ意味で口にしていたと思う。Rは本当に神経質だから。そんなこといちいち気にしていたら生きていけないわよ。大人になったら苦労するわよ。かわいそうに、それじゃ疲れるでしょう。
母からは、キチガイ、なんて罵られることもあったけれど、それも仕方ない。あの頃は今よりも程度が酷くて、干してあった洗濯物を取り込む際、床に落としたくらいで再度洗い直しをしてもらっていたくらいだ。街中で見知らぬ人とほんの掠るくらいぶつかっただけで、ぶつかった箇所をいつまでもはたき続けるような子だった。……あ、うん、やっぱり普通ではなかったかも。
それ(の一部)が、今やグローバルスタンダードになりつつあるっていうトンデモ現実。いやはや。
私、今でも現役バリバリの潔癖症(他称)だし。
大人になった今では私も家族を持ち、幼稚園児の娘を育てている。夫、ましてや幼児にマイルールを押し付けるなんてとてもできないので、妥協して緩和して臨機応変にゆるっとやっているうちに、
治りました、潔癖症!
とはならなかったのだ、これが。
まだ付き合い初めでラブラブ(死語)だった頃の夫が、寝不足かつ泥酔してワイシャツ及びスーツのズボンのままで私の部屋で寝入ってしまった時も、着替えないなら帰れ、出て行け、と叩き起こし、「ムリ、いいじゃん」と高を括っている彼に、「ここは私の城だ、譲る気はない! 別れるのも辞さない!」と強硬な態度を貫き今に至る。
それでも夫の親戚や義理の両親には取り繕っていたつもり。
なのに、この新型コロナ騒ぎの折、娘の声を聴かせようとかけた電話で、義母に言われた一言。
「Rちゃんはスゴイわよね。今、感染予防のためにはこうしましょうって言われてること、ずっと前から実践していたものね!」
すっかりバレていた!
なんでわかったんだろう??
そりゃ、
旅行鞄を玄関に置くのを遠回しに拒否したり、
電車の中で手すりに凭れている夫をこっそり叱ったり、
秋冬の時期の電車移動時には必ず娘にマスクさせたり、
他にもいろいろやっていた自覚はあるけれど、どれもこれもそんなには変わったことじゃないし、許容範囲だと思っていたし、ていうか割と普通かなって……
なのに、バレてるー!
さらに追い打ちだったのは、親戚の中の愛されキャラとされている義母妹のセリフとして伝え聞いた、これ。
「こんなふう(緊急事態宣言発令)になって、Rちゃんは大丈夫? どうしているの? もっと気をつかったりしてるの?」
わあ。私、イタイ人になってる……! 気をつかうっていう婉曲表現が却って刺さる。
さらにさらに。対する義母の返答。
「ううん。Rちゃんはね、いつも通りよ」
わかっていらっしゃる。そう私、いつも通り。新しく取り入れた対策とかって、たぶんない。
何なら引き籠りも得意。いざ籠城する時のために1月から兵糧も備蓄してあったよ! ホットケーキミックスとか小麦粉にバターも、小売りや流通業の方たちに迷惑かからない時期に買いそろえたよ! 乾物やトマト水煮パックは常備してるよ!テレワークもフルでやっているし、超過勤務気味で時給いくらかなって時期もあったけど、もう軌道に乗せましたから! 任せてください! 寧ろ満員電車とかもう乗れません!
とまくしたてたいのを堪えて、
「ああ、ハイ。そうかもしれません……」
とだけ返した私。
この先義実家に赴く際にはどんな顔でいればよいのやら。
with コロナ、いろいろ失ったものも多いけれど、せめてせめて、
せっかく塗り替わった衛生観念のスタンダードはこのままで。