仮説「業務改善とは、新たなムダに挑戦するためのスキマを作ることである」
今日は前回の続き。
「働き方改革を推進した末、最も非効率とも思える経営判断に至ったわけ」
小さい会社を11年やってきた中で、適宜業務改善し、リモートワークなど最適な働く環境を整え、各方面のプロと連携しながらよりよいサービスを提供する環境を整えて来たにも関わらず、
ひょんなことから採用した未経験の第二新卒の出番を作るべく、アパレル業界に参入しファッションECサイトを立ち上げた、というのお話でした。
本業が順調なのに、わざわざ畑違いな仕事に手を出す必要があるのか?それこそ最大のムダでは?と我ながら思うのですが、
結果的には「業務改善とは新たなムダに挑戦するためのスキマを作ることである」という仮説に至った理由を今日はシェアしたいと思います。
まず最初に、私のキャリアにおける部下育成の経験値をお伝えしますと、
・新卒で入社した凸版印刷では、後輩はいたものの直属ではなかった
・その後転職したITコンサル会社と研修会社は、どちらもフラットな組織ゆえ、明確に部下と呼べる人はいなかった
・会社設立後の自社スタッフは即戦力を求めたため、年齢も経験も重ねた人ばかりだった
それゆえに、研修講師としては各社の新入社員を含めのべ3万人のビジネスパーソンにお会しているものの、上司としてまっさら状態の新人と仕事するのは実を言うと初めてでした。
初めてのことには学びがつきもの。想定外の新規事業へのチャレンジと、新人育成の中で学んだことを3つに分けてお伝えします。
1.「普通こうだよね?」の“普通”などないってことに改めて気づく
キャリアを重ねてくると、仕事で関わる人の“層”がある程度限定されてくる気がしませんか?
どれだけ新たな人に出会っても、共通認識・共通言語・共通価値観などをなんとな〜く共有できる者同士が集まりやすい、ということです。類友とでも言いますか。
例えば私であれば、業種や立場が違っても一定の社会性の中で自立し、自分の仕事に責任を持ち、少なからず利他の心をお持ちの方々。そこから大きく逸脱した人に仕事上で出会うことはほぼありません。
でも一方で「これって実は危ない感覚だな」とも思っていまして。
本当は一人一人違うのに、なんとなく“同じ”みないな「村意識」を持っていると、さっき言った「社会性」「自立」「仕事の責任」「利他の心」のすべてを1から身につけようという“これからの人”に出会った時にその人を排除しかねない、と思うからです。
だからこそ、正直アパレルECをやる必要性はないし、緊急でも重要でもない案件だけど、目の前のご縁を引き受けてみようかな?という気になったわけです。これも人材育成の取り組みのひとつ、と捉えていました。
とは言え、前提が違う人と関わりはまさに異文化コミュニケーション(笑)なかなかエキサイティングです。例えて言うなら「掛け算はできないけど円周率だけ知ってる人」としゃべってるみたいな感じ。(なんか変な例えだな)
3.14の話してるから当然円の面積は簡単に出せるだろうと思うじゃないですか。(半径×半径×3.14ね)でも実は九九をまったく知らなかった、みたいな。「なんですか?それ」みたいな。えーーーっ?!まじかー? ?っていう。
「九九なんか誰でも知っている」というのが思い込みですね。この思い込みが邪魔をして、スタート当初はかなりビックリなことの連続でした(笑)
ただ、フレッシュな人の言動行動パターンを見ていると「あー、私ってビジネス界隈に染まり過ぎてるなー」と気づかされることもしばしば。
自分自身の「これが普通、これが常識」をいったん脇に置くのはなかなかパワーのいることですが、「前提を共有していない人に、どう伝えれば理解してもらえるか」を1つ1つ考えることは、どんな脳トレよりも頭がフル回転になります。
人に伝えることを生業にしている者として、着実に見える世界がまた一段広がった実感がありました。
2.昔取った杵柄が思いのほか活きて、仕事の原点まで再発見できる
私がやっている研修やコンサルって、B to Bの取引が9割以上で、かつ仕入れや設備投資がない分、リソースとバリューが完全に人にくっついているタイプの仕事です。うちの場合、ほぼリピートと紹介だけで成り立っています。
一方ファッションECサイトは、一般消費者が対象。小売業ですから当然、原価、販売コスト、輸送費、広告費、さらにECプラットフォームへの手数料などを試算して販売価格を決定します。しかもかなりの若年層を対象としていて、SNSでのファン獲得などがカギになってきます。
新人には一つ一つ仕事の基本動作を教え、売上がいくらになったら利益はいくら、あなたの給料はいくらだから、月に最低◯◯万円売り上げないと会社に利益が出ない等々、数字の感覚を徹底的に叩き込み。
web広告を打つにしても、この写真じゃ刺さらない、このレイアウトじゃインパクトがない、など細かすぎる指示を連発し。
やらせてみては修正し、またやらせてみてをアホほど繰り返しながら、ふと、
あれ??なんだろ、この既視感・・・
という感覚に陥りました。
そもそも全く畑違いなことにチャレンジしてるのに、何でこのことを感覚的に掴めてるんだろ、私?と不思議に思った瞬間、はたと気づきました。
そうだ私、昔こういうこと死ぬほどやってたんだった、と。
私のキャリアのスタートは凸版印刷の営業職から。営業1人1人が担当するクライアントへの企画提案から受注、受注後の生産計画、品質保証、製造、物流管理、顧客への納品、そして売上回収までの全ての工程に携わる「ひとり商店スタイル」で仕事をしていました。
1個3円20銭の商材が2500個入った段ボールを何ケース納入したら売上がいくらか。3円20銭の中に開発費、材料費、製造費、物流費、人件費などのコストがどんな割合で乗っていて、月にいくら売り上げたらいくら利益が残るのか。
納期調整や顧客対応の際、「こういう時はこう言ったほうが相手が動いてくださる」「こういう時はこういう順番で説明した方相手に納得してもらいやすい」などのコミュニケーションの勘どころ。
競合他社と違う強みを出すには、自分たちにいま何ができるか。「もっと創意工夫しなさい」と指導しながら、そう言えばこれって凸版の社内用語たったよなー、とふと思い出したり。
昔取った杵柄ってやつですかね。こういう「無意識の肌感覚」って、自分にとっては当たり前すぎて、今回のように何かきっかけでもない限り意識の表層に上がってくることはありません。
でも思い返せばこの「無意識の肌感覚」が、必要な場面で勝手に発動されてきたからこそ、都度の判断を大枠で間違わないでここまで来れたベースになっていたんだと、改めて気づきました。
だったら若い世代の人たちに、こうした仕事の肌感覚を養ってもらう場を作ることもまた、これから私がやっていくべきことの一つだろうと思うに至りました。
3.試行錯誤の痕跡のすべてに「商売のタネ」がひそんでる
ここまで長々書きましたが、要はコレ↑↑↑こそが「業務改善とは新たなムダに挑戦するためのスキマを作ることである」という仮説への私なりのアンサーです。
言うまでもなく仕事とはPDCAの連続。その過程で生まれたムダの全てが、実はコンテンツになり得ると思うのです。
例えば、「ECビジネスのはじめる前に知っておくべき落とし穴」みたいなベタな話を誰かが必要としてるかもしれない。
あるいは売上管理と業務効率化のための手作りツールを「欲しい」と言う人がいるかもしれない。
部下育成に悩んでいる上司の中には「社会人一年生のためのタイムマネジメントのイロハのイ(時間割編)」みたいなコンテンツを求めてる人がいるかもしれない。
こう考えたら「ムダから新たな価値が生まれる」と言っても過言じゃない気がしています。そして新たなムダにチャレンジできる程度に常に余力を残しておくこともまた、良い働き方の条件だろうと思うのですが、皆さんいかがですか?
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