せいかつの軌跡(44)
副鼻腔炎にかかった。
数日前から続いていた虫歯のような痛みが頭痛に変わった。顔半分を締め付けられるような痛みが続き、鼻水が止まらず食べ物の味が分からない。
朝、ゾンビみたいな動きで朝ごはんの準備や保育園へ行くトモシの支度を手伝う。頭が割れるように痛い。イヤイヤ期真っ盛りな灯は寝起きから、ジブン大爆発。指差しする動作や、何か単語を叫ぶことで気に入らないことを表現する。状況が変わり嫌な原因がなくなっても、不機嫌な態度に拘り続ける。全く日本語が通じない。突然宇宙人になったみたいだ、と思う。やっとのことで朝の支度を終え、仕事へ行く哲に灯を託した。どっと疲れた。
かかりつけの歯医者さんへ行くと、虫歯ではなく副鼻腔炎ではないか、と言われる。この痛みの中二時間近く待って、また別の病院か。時計を見ると既に10時45分。新患の受付は11時まで。急いで耳鼻科へ向かう。
平日でも総合病院は混雑していた。おやつを分け合って、おしゃべりを楽しむばあちゃん達。まるで寄り合い所。レントゲンを撮り、診察から会計まで2時間半かかった。診察料は6500円ほど。頭も財布も痛い。歯医者さんの見立て通り、副鼻腔炎らしかった。
帰宅して二日間薬を飲んでも、症状は良くならなかった。頭痛は強くなり、起きているのが辛い。市販の痛み止めを飲んでも、効果無し。電話をして、もう一度診察を受けることにした。
少しでも痛い現実から気を逸らしたくて、図書館で本を借りていった。借りたのは、山内マリコ著「あのこは貴族」。メインの登場人物はアラサー世代の女性たち。経済格差やジェンダー、自我の確立を巡る葛藤が、リアルだけどどこか優しい筆致で描かれているように感じた。生きていく女性たちへのエールみたいな一冊。
また二時間近くかかって診察、会計を終える。処方された痛み止めは良く効いて、格段に生活しやすくなった。
病院で、臨月の妊婦さんとすれ違った。自然と大きなお腹に手を当てている姿は満月のよう。神々しく、輝いて見えた。
「あなた、今すごく綺麗ですよ。輝いてますよ。今のうちに写真とか撮ったほうが良いですよ。」
心の中で、お節介なメッセージを送った。臨月の妊婦さんにはその時しかない、特別な美しさがあると思う。
地団駄を踏んで喚いて大爆発
君は突然宇宙の人に
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