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76.頭文字D(イニシャル・ディー)
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第96回箱根駅伝予選会の前日、筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトのTwitterアカウントに、こんな記事が掲載された。
デサント様より、ユニフォーム、ジャージ、ウィンドブレーカーを作っていただきました。
— 筑波大学 箱根駅伝 復活プロジェクト (@tsuku_hako) October 25, 2019
ありがとうございます。
明日の箱根駅伝予選会、いただいたウエアを身にまとい頑張ります。#筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト#醒めて起て#デサント#DESCENTE pic.twitter.com/oBreI8Nl4V
一見何気ない記事だ。しかし、この記事には驚くべきドラマが潜んでいた。
もちろん陸上シロートの私は、まったく気づかなかった。読者の皆さんも説明されなければきっとわからないはずだ。
謎解きの前に、謎とは直接関係ないが写真の解説をしよう。
写っているのは、向かって左から猿橋拓己くん(第96回箱根駅伝3区走者)、伊藤太貴くん(同8区走者)、大土手嵩くん(同4区走者・当時駅伝主将)。
彼らがいるこの部屋は、民間アパートの一室である。
「桐萌塾(とうほうじゅく)」の看板が掲げられたこのアパートは、昭和時代から数十年に渡り、筑波大学陸上競技部中長距離ブロックの寮として、彼らの競技活動を支えてきた。現・駅伝監督の弘山勉さんも、学生時代この寮に住んでいたという。1棟=2DK×8室のうち1室を食堂として使っており、アパート自体は14人しか入れないので、他の学生さんは近隣のアパートに分散して住んでいた。
大家さんのご厚意で、採算度外視の激安家賃だったそうだ。部活動に資金の出ない筑波大学の学生は、クラウドファンディングが始まる前、すべての活動費用を自費で賄っていた。箱根駅伝への、ともすればくじけそうになりがちなか細い道を、こうした支援者の方々が地道に温かく照らし続けてくれていたのだ。
寮と言っても管理人がいるわけではない。学生宿舎の一部を改造してそちらに引っ越しするまでは、最大で40名近い学生さんがこの約12畳の食堂で、ぎゅうぎゅう詰めで食事をとっていた。
急ぎの時は立ったままご飯を食べているものもいたというから、その苦境は推して知るべしであろう。
【箱根駅伝まであと14日】
— 筑波大学 箱根駅伝 復活プロジェクト (@tsuku_hako) December 19, 2019
夕食時の風景です。全員が集まると食堂がごった返します。
夕食はいつも栄養研の皆様が調理してくださいます。
クラウドファンディングはあと1日です。皆様のご支援心よりお待ちしてます。#筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト#醒めて起て
#令和のいだてん pic.twitter.com/c0NIiBSb5t
筑波大学が箱根駅伝本戦に出場したことで、クラウドファンディングも大きな金額が集まった。それを利用して、大学敷地内にある、使用されなくなった古い来客用施設の一部を改装し食堂兼ミーティングルームが完成。同時に学生たちも学生宿舎へ移り、「桐萌塾」は拠点を大学内に移すことになったのである。
前置きはこのくらいにして。
この記事に潜んでいるドラマのキーワードは、頭文字Dの企業、DESCNTE(デサント)である。
私と同年代の方々には、デサントは野球やスキーウェアのメーカーというイメージが強いかもしれないが、陸上競技分野でもデサントはミズノ、アシックスなどと並ぶ、日本を代表するトップブランドである。
チームユニフォームの制作を依頼するメーカーは大学ごとに異なるが、この頃、筑波大学陸上競技部の公式ユニフォームは、アシックスが担当していた。
参考までに、第95回箱根駅伝で関東学生連合チームの一員として5区を走った相馬崇史くんの写真を紹介する。右胸にaをアレンジしたアシックスのマークがある。
それなのに、なぜデサントがユニフォーム類を提供したのか。
私はその理由を、予選会終了後、駅伝や陸上競技の情報通、EKIDEN NEWSさんの記事で偶然知ることになる。
「実は会社にいわずに、自分の気持ちだけで
チームをサポートすることにしたんです。
だから、すべての選手にはウェアをそろえられなくて
トップチームの選手だけになっちゃった。それが申し訳なくて。」
予選会当日、EKIDEN NEWSさんが会場で出会った、デサントの営業担当Yさんの言葉である。
自分の気持ちだけ、とはどういうことか。
企業には商品を売り込むための営業部門があり、そこには営業をするための費用、すなわち営業活動費が割り当てられている。営業活動費は、ある程度の規模なら担当者個人の裁量で使えることもあるが、大きい金額だったり重要な案件の場合は、企業方針と照らし合わせる意味でも、しかるべき責任者の決裁が必要になる。
それなのに、この方は会社に黙って(自社の顧客ではない)筑波大学の五三の桐マークのウェアを制作し、提供していたのだ。サンプル品の制作といった名目ではないかと思うが、それゆえに限られた数しか作れなかったし、これが売上拡大(筑波大が正式採用するなどの実利)に直接結びつくかの保証は全くない。最悪、会社に何か言われたら費用は自分が被るくらいの覚悟があったと思う。
ここからは私の妄想になるが、この方は何らかのルートで、当時の筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトの状況をかなり正確に把握していたのではないか。そして、私が感じたように「試練を乗り越えてがんばっている彼らを何とか応援したい」という、切迫した気持ちに駆られたのかもしれない。
そうでもなければ、予選会の下馬評にも大学名があがらないような筑波大学に、このタイミングで「自分の気持ちだけで」ウェア類を提供したことに説明がつかない。
以来、私はこのデサント営業のYさんをチームつくばの一員だと勝手に認定している(笑)。
デサントのYさん、ありがとう!
しかし、陸上クラスタの皆さんにとっては、デサントのウェア提供よりも、もっと気になることがあったようだ。
後ろの壁に貼ってある数字である。
10時間45分
64分30秒
箱根駅伝予選会のことを知っている人ならすぐに気が付くだろう。
これは、予選会突破のための目標タイムだ。
上の数字は、上位10人の合計タイム。
下の数字は、一人あたりの平均タイム。
前年の予選会のデータをもとに掲げたものであろう。それまでの筑波大学の実績値に照らしてみて、はっきり言って「ありえないほど」高い目標である。
Twitter上の陸上クラスタさんたちの反応はというと「筑波大学、目標だけは本気だな~」という感じのほほえましい空気感だった覚えがある。
そこに、弘山さんの謎のコメントが。
DESCENTE さま ありがとうございます!目標記録が出てますが、今年度初期に書いたものなので、ご愛嬌かな(笑) https://t.co/HCYujBDcPk
— 弘山勉 (@HiroyamaTsutomu) October 25, 2019
え、えっ?ご愛敬って、どういう意味でしょうか!?((((;゜Д゜)))
— うっしー (@miracle6719) October 25, 2019
(聞くの怖いから回答不要です😱) https://t.co/iVcFsAgMbC
このタイムは昨年の予選会10位通過相当だと思うけど、結構高いハードルでふよ…?😭
— うっしー (@miracle6719) October 25, 2019
ご愛敬って一体何!?
ホントの目標は一体どこーーー!?
今度こそ、第96回箱根駅伝予選会当日に続く!!!
【おまけ】
箱根駅伝予選会突破当時に紹介された「桐萌塾」に関する記事をどうぞ。
アパートに掲げられていた「桐萌塾」の看板は、現在、学生さんたちが共同利用している、筑波大学のミーティングルーム兼食堂施設の入口に掲げられています。