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73.カウントダウン・ラプソディ(3)

第96回箱根駅伝予選会まであと3日。
この日の選手紹介は、こちらの二人。

改革後のチームを率いる駅伝主将、大土手くんの実家は熊本県の相良村なので、二人とも熊本県人である。
熊本は駅伝の聖地のひとつといっていい。2019年の大河ドラマ「いだてん」の主人公であり、駅伝という競技を発案した金栗四三氏は熊本県出身だ。彼らは子供のころから、駅伝のなんたるかを聞かされて育ってきているだろう。
”生真面目な”大土手くんと、”チャラい”児玉くん。
まったくタイプの違う二人の「いだてんさん」の存在は、間違いなく改革後の筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトチームの象徴だ。
私の予感は、予選会当日に的中(←あくまで妄想)する。
【注】蛇足ですがこの構図、2019年7月公開の新海誠監督映画「天気の子」です(笑)。

翌日は、上級生の二人が最高の表情で写っていた。

医学部5年生の川瀬宙夢くんの話は以前にもしているので、今回はもう一人の上級生について語ろう。

金丸逸樹くん(現・戸上電機製作所)は、7月の「チーム改革」後、プロジェクトに残った、たった一人の4年生だった。おっとりした性格でマイペース。下級生からも「いっくん」と呼ばれ、親しまれている。
長距離選手は大きく2つのタイプに分けられる。トラック(=陸上競技場内を走る)競技が強いタイプと、ロード(=競技場の外を走る)競技が強いタイプだ。
トラック競技は「他者とのコミュニケーション能力」や「(いい意味で)自己アピール力」の高い人が能力を発揮しやすい。一方、ロード競技は「自分自身との対話がきちんとできる」「(いい意味で)周りの空気を読まないマイペース」な人の方が、安定して高いパフォーマンスを発揮しやすい、という印象を私は持っている(もちろん、これに当てはまらないパターンもたくさんあるが)。
金丸くんは、典型的なロードタイプの選手である。
1年次に10000m29分台をたたき出し(注:当時は厚底シューズ普及前なので、29分台は現在の28分台くらいの実力に相当する)、将来を嘱望されたものの、その後は怪我などもあって目立った成績は修めていない。
だが、彼の潜在能力は高校時代の恩師や弘山監督も認めるほどであるから、何かのきっかけで大化けする可能性は十分にあった。

偽らざる心を述べると、前年(2018年)秋の役員交代時、私は金丸くんが駅伝主将になるのではないかと予想していた。この学年で、もっとも駅伝競技への思い入れが強かったのは彼だと思っていたからだ。
金丸くんは、一般的なイメージのリーダータイプではないかもしれない。だが他薦であれ、彼が覚悟を決めて駅伝主将になることを承知していたら、プロジェクトはまた違った世界線を歩んでいただろう。彼の人となりであれば、メンバー全員がある意味危機感を持ち、みんなで支えようと強く結束したのではないか。
筑波大学では、部活動は学生による運営が大原則である。役員も当然、部員たちの総意として選ばれ、そこに指導者たちの意見が入る余地はほぼない。当時の弘山監督がどのように考えていたかはわからないけれど、それに関する考察は、また後の回に譲ろう。

一つだけ言えること。
物事に「違う道」はあっても「間違った道」はない。

「チーム改革」という試練を受けたことで、彼は自分自身の気持ちと真摯に向き合うことになった。その覚悟が、9月28日に開催された記録突破会での自己ベスト更新に表れていた。
選手紹介の写真に写っていた彼の表情は、迷いなく、誇らしく、晴れやかだ。

そして、決戦の日の前日。
最後のツイートには、改革後のチームを支えてきた二人の姿があった。

箱根本戦に向けて”襷”つくりました

本気すぎる。
二人のここまでの献身を思って、涙が止まらなかった。
「いだてん」で、綾瀬はるかさん演じるスヤさんが、中村勘九郎さん演じる金栗四三にかけた言葉を思い出した。

「金栗四三が50人いたらよかばってんね」

そう、いなければ作ればいい。だが、その役目を誰が背負うのか。

東京高等師範学校を祖とする筑波大学の使命。
自らが獲得した叡智を他者に惜しみなく伝え、それにより一人ではなしえない困難な課題を解決すること。
「開かれた大学」の本質はそこにある。

筑波大学陸上競技部の悲願、「箱根駅伝復活」は目の前にあった。

***

【またまた余談】
のちのインタビューか何かで小耳にはさんだネタですが、筑波大学時代に箱根走った弘山勉監督、自分がかけてた襷の色をあんまりよく覚えてなかったらしいです(ちゃんと黄色の襷かけてますよ~)。
まだ「襷やユニフォームで大学をアピール」することを意識する時代じゃなかったんですね♪

「TSUKUBA WAY INTERVIEW」より画像引用 http://tsukubaway.com/column/sportsperson/1191 

なお、日本最古級の体育部である筑波大学陸上競技部。現在のユニフォームも校章の五三の桐のみで、どこにも大学名が入っていません。
ものすごいプライドです。
※参考に、全日本インカレ陸上2022の男子4×100mリレーにおいて、神バトンリレーで優勝した筑波大学チームの画像入りツイート貼っちゃお♪


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