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同一労働同一賃金導入による働き方の変化

「同一労働同一賃金」とは、同一の仕事に従事する労働者はすべて同一水準の賃金が支払われるべきだという考え方です。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消することが目的です。
正規雇用労働者とは、無期雇用フルタイム労働者をさします。
非正規雇用労働者とは、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者をさします。
どのような雇用形態を選択しても納得できる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できることをめざしているのです。
「同一労働同一賃金」とは具体的にどのようなものか、導入によって何がどのように変わるのかについてお話しします。


1 同一労働同一賃金の導入の背景


同一労働同一賃金の導入には、いくつかの背景や経緯があります。
 

(1)非正規雇用労働者の増加


日本では、労働市場の変化に伴い、非正規雇用労働者の割合が増えてきました。
非正規雇用労働者の割合は、2009年の約3割から2019年には約4割へと増加しています。
その結果、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の待遇差が顕著になり、問題視されるようになってきたのです。
 

(2)賃金格差の是正


非正規雇用労働者は、正規雇用労働者と同じ仕事をしているにもかかわらず、賃金や待遇に大きな格差が存在していました。
この不合理な待遇差を解消するために、同一労働同一賃金の法制化が求められるようになりました。
 

(3)労働力人口の減少


日本の労働力人口が減少するなかで、すべての労働者が最大限に活躍できる環境の整備が必要と認識されるようになりました。
そのなかで、非正規雇用労働者の待遇の改善により労働市場全体を活性化させようという考え方が出てきたのです。
 

(4)働き方改革の一環


同一労働同一賃金は、働き方改革の一環として導入されることになりました。
働き方改革は、労働者の多様な働き方を支援し、ワークライフバランスを向上させることを目的としています。
 

(5)国際的な動向


同一労働同一賃金の考え方は、国際的にも広がりを見せています。
欧州連合(EU)などでは、すでに同様の法制度が導入されており、日本もこれにならう形で法制化を進めることになりました。
 
以上のような背景を踏まえ、2020年4月に大企業で、2021年4月に中小企業で同一労働同一賃金が導入されました。
企業は同一労働同一賃金を実現するために対策を講じなければなりません。

2 同一労働同一賃金ガイドライン


厚生労働省は同一労働同一賃金ガイドラインを作成しています。
同一企業・団体の正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合を対象としています。
いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを具体例を挙げながら示すものです。
 

(1)基本給・昇給


労働者の能力・経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は、それらが同一であれば同一の支給をしなければなりません。
賞与で、会社の業績等への貢献に応じて支給するものは、同一の貢献であれば同一の支給をしなければなりません。
 

(2)各種手当


役職手当や特殊作業手当、通勤手当などの各種手当についても、同一の労働に対して同一の支給を行うことが求められます。
 

(3)福利厚生・教育訓練


正社員と同一の事業所で働く非正規雇用労働者にも、正社員と同一の給食施設、休憩室、更衣室の利用を認めなければなりません。
 
なお、定年後の継続雇用者が正規雇用から非正規雇用になった場合も、仕事の内容が変わらなければ待遇差を設けてはなりません。

3 事業者に求められること


同じ企業で働く正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、あらゆる待遇において不合理な差を設けることが禁止されます。
事業主は、非正規雇用労働者から、正規雇用労働者との待遇の違いや理由などの説明を求められた際は説明をしなければなりません。
たんに「パートだから」「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的理由では足りません。
正規雇用労働者と、つぎのような点での違いに応じた範囲内で、待遇を決定する必要があります。
・職務内容(業務の内容+責任の程度)
・職務内容・配置の変更範囲(転勤、人事異動、昇進などの有無や範囲)
・その他の事情

4 派遣労働者の待遇への影響


2020年4月の改正労働者派遣法は、派遣労働者の同一労働同一賃金をめざしたものです。
 

(1)待遇決定方式の選択


派遣元は、派遣労働者の待遇を決定する際に、①派遣先均等・均衡方式または②労使協定方式のいずれか採用しなければなりません。
派遣労働者と正規労働者との待遇差を解消することが目的です。
 
①派遣先均等・均衡方式
派遣先の通常の労働者と派遣労働者の待遇とを均等または均衡にする方式です。
均等とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合には差別的取扱いをしてはならないとすることです。
均衡とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止することです。
ただし、派遣先が変われば待遇を決める基準も変わることになります。
 
②労使協定方式
派遣元と労働者の過半数を代表する労働組合または労働者代表との間で労使協定を締結し、派遣労働者の待遇を決定する方式です。
派遣先が変わっても待遇に大きな影響が出ない安定性がある一方で、派遣先の待遇と同じになるとは限りません。

(2)派遣元の説明義務の強化


雇入れ時、派遣時、派遣労働者から求めがあった場合の待遇に関する、派遣労働者への派遣元の説明義務が強化されました。
派遣労働者が不合理な待遇差を感じることのないようにするためです。
 

(3)紛争解決の促進


派遣労働者に関するトラブルの早期解決を図るため、「行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)」が整備されました。
裁判をせずに事業主と労働者との紛争を迅速に解決するためのものです。

5 正規雇用労働者の待遇への影響


同一労働同一賃金の導入によって正規雇用労働者の待遇が大きく変化することはないでしょう。
同一労働同一賃金ガイドラインでは、つぎのとおり示しています。
正規雇用労働者の待遇は、原則、労使合意なしに不利益に変更できません。就業規則の変更による場合でも、合理的なものである必要があります。
よって、非正規雇用労働者との不合理な待遇差解消のための、労使合意なき正規雇用労働者の待遇引き下げは望ましくないとします。

6 同一労働同一賃金導入による働き方の変化


同一労働同一賃金の導入による働き方の変化は、つぎのようなものが考えられます。
 

(1)不合理な待遇差の解消


正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が解消されます。
同じ仕事をしている労働者が同じ賃金や待遇を受けられるようになります。
 

(2)多様な働き方の選択肢


雇用形態に関係なく公正な待遇が確保されるので、労働者は自分に合った働き方を自由に選択できるようになります。
たとえば、パートタイムや有期雇用でも正規雇用労働者と同等の待遇を受けられるようになります。そうなればライフスタイルに合わせた働き方がしやすくなるでしょう。
 

(3)労働者のモチベーション向上


待遇差が解消されることで、非正規雇用労働者のモチベーションが向上します。
労働意欲が高まることにつながり、生産性の向上も期待されます。
 

(4)離職率の低下


公正な待遇が確保されることで労働者の満足度が向上し、離職率の低下が期待されます。
 

(5)教育機会の拡大


賃金だけでなく、教育訓練の機会も平等に提供されるようになります。
すべての労働者がスキルアップの機会を得られ、待遇の向上も期待できるでしょう。
 

 
同一労働同一賃金の導入により、労働環境が改善され、働きやすい職場が増える効果が見込めます。
自分のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方がしやすくなれば、従来以上に能力を発揮できる人も増えるでしょう。
また、実施する企業の対外的なイメージも向上します。公正な待遇を提供する企業は、求職者からの評価が高まり、人材確保がしやすくなるのです。
同一労働同一賃金は、労働者にも企業にも、そして経済全体にも大きなメリットをもたらすことが期待されています。

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