公的介護保険制度を利用するために必要な手続き
厚生労働省「令和4年版厚生労働白書」から引用します。
年代別の要介護・要支援認定者数の割合は、年齢が高くなるにつれて急速に増加し、85歳以上では約6割となっています。
だれしも高齢になれば介護を受ける可能性が高まっていくのです。
介護が必要になった場合、一定の要件を満たせば公的介護保険制度を利用できます。
公的介護保険制度については以前もお話ししましたので、今回は介護サービスを受けるための手続きを中心とします。前回と重複する内容もありますのでご了承ください。
1 公的介護保険制度とは
公的介護保険制度は、介護が必要な高齢者やその家族を支えるために、2000年に導入されました。
介護が必要な人々が安心して生活できるように、社会全体で支えることを目的としています。
国や地方自治体が運営し、40歳以上の人が加入することが義務付けられています。
制度の概要はつぎのとおりです。
(1)加入年齢
40歳以上のすべての人が自動的に加入します。
(2)保険料
2024年度の保険料の金額の全国平均は月額6,225円ですが、市町村によって3,374円から9,249円と差があります。
①65歳以上の人(第1号被保険者)
公的年金が年間18万円以上の人は年金から天引きされ、それ以外の人は納付書や口座振替で納付します。
②40歳〜64歳の人(第2号被保険者)
健康保険料と一緒に徴収されます。
会社員や公務員は給料から天引きされ、医療保険料と同様、原則として事業主が半分を負担します。保険料は、(標準報酬月額 + 標準賞与額) × 介護保険料率 で計算されます。
自営業者は国民健康保険料と合わせて納付します。保険料は、所得割 + 均等割 + 平等割 + 資産割 で計算されます。算出方法は自治体によって異なります。
(3)サービスの対象者
65歳以上の人は要介護認定を受けた場合、40歳〜64歳の人は特定疾病が原因で要介護認定を受けた場合にサービスを利用できます。
(4)受けられるサービス
次のようなサービスを受けられます。
サービスは、ケアマネジャーと相談して利用するサービスを決定し、作成したケアプランにもとづいて利用することになります。
①訪問介護
ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴、排泄、食事などの介護を行います。
②訪問看護
自宅での療養生活のために、看護師が医師の指示のもとで健康チェック、療養上のサポートなどを行います。
③福祉用具の貸与
車椅子、ベッドなどをレンタルできます。
④デイサービス
日帰りで施設を利用し、食事や入浴、リハビリテーションなどの支援を受けられます。
⑤ショートステイ
短期間施設に宿泊し、介護サービスを受けられます。
④特別養護老人ホーム
常に介護が必要な人が入所し、日常生活の支援を受けられます。
(5)介護保険を利用する要件
介護保険を利用するためにはつぎのような要件を満たす必要があります。
①介護保険の被保険者であること
【第1号被保険者】65歳以上の人
【第2号被保険者】40歳から64歳までの医療保険加入者
②要介護認定を受けること
市区町村の窓口で要介護認定の申請を行い、調査を受けます。
認定結果にもとづき、要支援1~2または要介護1~5と判定されることが必要です。
③介護サービス計画書(ケアプラン)の作成
認定後、ケアマネジャーと相談してケアプランを作成します。
(6)公的介護保険制度と民間の保険会社の介護保険との相違点
2 要介護認定・要支援認定を受けるための手続き
要介護や要支援の認定を受けるための手続きはつぎのような流れになります。
(1)要介護認定・要支援認定の申請
まず、お住まいの市区町村の窓口で申請を行います。
申請には、介護保険被保険者証や医療保険証(40~64歳の場合)が必要です。
(2)認定調査・主治医意見書
市区町村の職員や調査員が自宅を訪問し、心身の状態を確認するための調査を行います。また、市区町村が主治医に主治医意見書を依頼します。主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要です。申請者の意見書作成料の自己負担はありません。
(3)審査判定
①一次判定
調査結果と主治医意見書をもとに、コンピューターによる一次判定が行われます。
②二次判定
一次判定の結果と主治医意見書をもとに、介護認定審査会が最終的な判定を行います。
(4)認定結果の通知
市区町村は、介護認定審査会の判定結果にもとづき要介護認定を行ない、申請者に結果を通知します。申請から認定の通知までは原則30日以内に行ないます。
認定は要支援1・2から要介護1~5までの7段階および非該当に分かれています。
なお、認定の有効期間はつぎのとおりです。
【新規、変更申請】原則6カ月(状態に応じ3~12カ月まで設定)
【更新申請】原則12カ月(状態に応じ3~48カ月まで設定)
※有効期間を経過すると介護サービスが利用できないので、有効期間満了までに認定の更新申請が必要となります。
※身体の状態に変化が生じたときは、有効期間の途中でも、要介護認定の変更の申請をすることができます。
(5)ケアプラン(介護(介護予防)サービス計画書)の作成
認定結果にもとづき、市区町村の指定を受けた居宅介護支援事業者に依頼し、ケアマネジャーと相談してケアプランを作成します。
要支援1・2の場合は地域包括支援センターでも相談できます。
ケアマネジャーが、どのサービスをどう利用するか、本人や家族の希望、心身の状態を充分考慮して、ケアプランを作成します。
(6)サービスの利用開始
ケアプランにもとづいて、必要な介護サービスの利用が始まります。
3 ケアプラン作成の注意点
ケアプランを作成する際に注意点すべきポイントにはつぎのようなものがあります。
(1)利用者の意向を尊重する
ケアプランは利用者の生活を支えるための計画です。
利用者本人やその家族の希望や意向をしっかりと反映させることが大切です。
ケアマネジャーとの面談の際には、具体的な生活状況や希望を詳しく話すようにしましょう。
(2)医療機関との連携
医師からの指示やアドバイスがある場合は、必ずケアマネジャーに伝えましょう。
適切なサービス内容が提供され、利用者の健康状態に合わせたケアプランを作成できます。
(3)継続的な見直し
ケアプランは一度作成したら終わりではありません。
定期的に見直しを行い、利用者の状態や生活環境の変化に応じて柔軟に対応することが重要です。
(4)経済状況の把握
ケアプランを作成する際には、利用者の経済状況も考慮する必要があります。
介護保険サービスの利用には自己負担が伴います。原則として自己負担は1割ですが、所得に応じて2割または3割になる場合もあります。
また、サービスの種類によって費用が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
十分に検討のうえ、無理のない計画を立てることが求められます。
(5)サービス提供者との連携
ケアプランにもとづいてサービスを提供する事業者との連携も重要です。
サービス提供者とのコミュニケーションを密にし、利用者に最適なサービスが提供されるように調整しましょう。
4 介護保険法の改正が今後検討される内容
2027年までに結論を出すべく検討が進められる予定の介護保険法の改正案があります。
介護サービスの質向上や利用者負担の公平性を目指すものです。
(1)要介護1・2の総合事業への移行
要介護1・2の高齢者に提供される訪問介護および通所介護サービスを市町村が運営する総合事業への移行が検討されています。
市町村が地域の実情に応じて、利用者のニーズに合わせたきめ細やかなサービスを柔軟に提供するものです。
地域のボランティアやNPO、民間企業などと連携し、地域全体で高齢者を支える仕組みを構築します。
市町村が運営するため、利用者の費用負担が軽減されることが期待されます。
(2)ケアプランの有料化
ケアプランの作成に対して利用者から費用を徴収することが検討されています。
(3)利用者負担の増加
利用者の自己負担が2割となる対象の拡大についても検討されています。
介護保険サービスを利用する際に設定される月ごとの上限額として、区分支給限度基準額があります。区分支給限度基準額を超えてサービスを利用した場合は、その超過分は全額自己負担となります。
また、介護保険サービスの利用者が一定の自己負担額を超えた場合、その超過分を払い戻す高額介護サービス費があります。
さらに、高額医療・高額介護合算制度があります。同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合は、合算後の負担額が軽減されます。
これらについては、以前お話ししましたのでそちらをご参照ください。
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