KinKi Kidsの愛はAmazing 後編
水道橋の駅を過ぎて東京ドームまでの道は、すでにファンの皆さんに埋め尽くされていた。
会場の前で、ライブの前にはいつも会うという、空ちゃんのファン仲間のお友達と集まった。
これまでのライブの話や、これからのことについて、パッと花が咲いたように話が弾んでいる。
初めてお邪魔した私に、みなさんとにかく優しい。
そして最後は「沼へようこそ!楽しんでくださいね~」と手を振ってくれた。
いや。間違いなく私、KinKi Kidsに会う前に、まずKinKi Kidsファンの皆さんのファンだわ、と思う。
にわか雨の予報もあったが、その日は結局雨にはならず、薄く日も差して、少し蒸していた。
お正月の明治神宮か鶴岡八幡宮かというくらいの人波(たとえが神社しか思いつかない)に押されながら、入り口を探す。私たちは「バルコニー席」の指定らしかったが、場合によっては違う場所に移ることもあるらしい。
検温と消毒、手荷物検査をして、回転扉から中にはいる。
正直、私は席のことはよくわからないので、できるだけ空ちゃんが満足できる席だといいな、としか思っていなかったが、残念ながらあまりいい席ではなかったようだ。
ステージの横側の席で、空ちゃんは少し残念そうだった。
実は今回のイベントは2日連続で、空ちゃんは昨日のライブにも来ていた。前日の席は「神席」というくらい、いい席だったらしい。
なんだか申し訳ないような気持になったが、空ちゃんは「いろんな方向から見たいからいいんだよ」と言ってくれた。残念だったのは、初めての私に、少しでもいい席で見てほしいと思っていたかららしい。
うう、優しい。
でも私は観られただけで幸せだから、どんな席でもいい席だよ!
ドームの中に入ると、廊下がモヤっていた。
スモークたかれてるのかな、と思うくらい、モヤがかかっている。
熱い。室内に入り、エアコンも効いていて、涼しいのに、熱い。
人々の期待と興奮の高まりが、物理的な熱量を生んでいるようだった。
目が慣れないまま、二人の写真が入ったうちわ(意外と小ぶり)と、最後に使うサイリウム(化学発光のケミカルライト)をいただく。
ドームに入る時からかなりキョロキョロして挙動不審だったが、会場に入って、その人数に圧倒された。
おそろいの服の人が多いのかなと思っていたが、グッズのTシャツを着たり、ふたりのメンバーカラーである赤や青を取り入れたり、みなさん思い思いの恰好だ。
人の大きさの縮尺がおかしく感じる。
すでに満席に近い状態で、アリーナの上にはやはり霧がかかっているように見えた。
もしかしたら、レーザー装飾のためやステージ準備の際のスモークが残っていたりしたのかもしれないが、とにかく、視界がクリアにならない。
何かがゆらゆら、立ち上っていた。
蜂が唸るような人の声がしているが、基本的にはみなさん静かに席に座っている。たぶんそれぞれが小声で話しているのだろう。
人間が5万超いれば、つぶやきも蜂の唸りなのだ。
席につくと、空ちゃんが「25周年記念ペンライト」を出して見せてくれた。ふと見ると周囲の誰もが持っている。
青(剛さん)と赤(光一さん)のカラーと、グラデーションに切り替えられるらしい。
「すっご…」
「すごい」
「わ~」
語彙がその3語に限定されて、感嘆の声しかでない。
気を取り直して素人の質問を続けたが、空ちゃんはどれに対しても呆れず嫌がらず教えてくれた。
やがてアナウンスがあり、客席が暗くなった。
ひとりひとりがもつペンライトの光が浮かび上がり、銀河の中かとみまごう美しさだ。
後ろの席についた中国語の若いお姉さんたちも、すっと静かになった。
会場がしんとしていた。
最初にこれまで25年の思い出を振り返る懐かしい映像がモニターに映し出される。ペンライトが一斉にきらめきを放った。
そして、二人が登場し、拍手が響きわたる。
ペンライトの動きが激しくなった。
『FRIENDS』が始まると、曲に合わせてペンライトが強く揺れた。
会場のファンの心がひとつになっているのがはっきりわかった。
でも、誰ひとり声を発しない。
正確には5万5千の、超満員の観客が、物音ひとつ立てない。
ここからは、神の領域だ。
私は空ちゃんをできるだけそっとしておくため、若干気配を消してみた(消さなくてもたぶん消えていた。笑)。
5万5千人の心がまっすぐ自分のところに届けられるのはどんな気持ちだろう、とKinKi Kidsの二人をみつめた。
二人は私の席からは、豆粒ほどに小さかったが、でも輝きがあふれんばかりだ。
二人の声はそれぞれ特徴があるけれど、一緒に歌うとより素敵な歌声になる。最初は、ドームなので音響が跳ね返るのが気になったが、次第に気にならなくなった。
25周年イベントということもあって、シングルカットされた曲やCM曲など、初心者にもわかりやすい構成になっているのがよかったのか、私も知っている曲が意外とたくさんあった。
特に印象に残っている曲は、『全部だきしめて』。
「堂本兄弟」だけではなく、「LOVE LOVE あいしてる」も観ていたことを思い出した。懐かしかった。
そういえば、空ちゃんにいろいろ聞いていたせいかもしれないが、KinKi Kidsの二人の印象は、こうしてライブを見ていても「LOVE LOVE あいしてる」のころからちっとも変わらない。
光一さんはライブの途中で、ネタとして「おじさんになったアピール」をしていたけれど、全然「おじさん感」なんてないし、二人の息は相変わらずぴったり。
空ちゃんによると「LOVE LOVE あいしてる」は、なんとデビューの少し前から始まっていたそうなので、それから25年以上経ってもイメージが変わらないなんて、すごいことだと思う。
それから『薔薇と太陽』。
「どっちが薔薇で、どっちが太陽ですかねぇ」と剛さんが言う。
この曲は剛さんがギター担当、光一さんがダンス担当。
この曲では炎の演出があって、演奏者もアリーナ席の人も熱そうだったけれど、迫力があった。「舞って舞って舞って踊る」光一さんのダンスも素敵だった。
バラードを歌いながら動く舞台(フロートというらしい)に乗って客席を回ってくれるのも楽しかった。
私にとってはもう、観るもの聞くもの、心奪われる楽しいことばかりだ。
最後の曲は、『硝子の少年』を作曲した山下達郎さんが、改めて25周年の記念に作ってくれたという曲、『Amazing Love』だった。
この曲のために5万5千人の客席がいっせいに七色のサイリウムをつけた。
ランダムに渡された色のサイリウムは、いちど「ポキッ」と真ん中で折ると、蛍光色に光るもので、私はこちらも初めての体験。
そして暗闇に浮かび上がるその光景は、とてもきれいだった。
まさにAmazing !
山下達郎さんはドームでのコンサートをイメージして『Amazing Love』を作曲してくれたそうで、その曲を初めて聴いたとき、剛さんはドームにペンライトの虹がかかった光景がパッと浮かんだのだという。
私も、この時とばかりに一生懸命サイリウムを振りながら、「わぁ、楽しいな」という子供の時にしか感じたことのないような気持ちが込み上げてきた。子供の頃は、もっと頻繁にこんなふうに、心奪われるような楽しさを何かに感じていたような気がした。
会場がひとつになってKinKi Kidsのふたりに愛を送り、その愛を全部まるごと受け止められる「器」がKinKi Kidsのふたりにある、ってものすごいことだな、と思った。
それだけではない。
KinKi Kidsのふたりは、これほどまでに多くの人を集める力があって、その上、そのひとりひとりを満足させて家に帰すことができるのだ。
ということは、ふたりは全員に、ファンが送った分以上の愛を返していることになる。
すごいパワーだ。
アイドルとか、スターとか。
簡単に言ってしまうけど。
そりゃあ、選ばれた人しかなれないのは当然だと思った。
そして25年。
20周年の時は剛さんが耳の病気でリモートでの出演となり、ステージに立てなかったこともふたりが話していた。
ジャニーズの一員として一線で頑張ってきたふたりの苦労や辛さを、全部キラキラ輝く宝石箱の中に納めて、華やかでワクワクする夢と愛を人に与え続けた25年。
すごいなぁ、と心から思った。
曲の詳しいことや、このライブイベントが「単独アーティストによる東京ドーム公演数最多の62回目」だったり、最初のライブコンサートから通算501回目になることなど、ふたりがステージで言ったこと以上のファンならではの細やかなレポートは、残念ながら私にはできないけれど、初めてのKinKi Kidsライブ体験は、とても楽しい、あっという間の時間だった。
ファンの皆さんは、本当は歓声を上げたいはずなのに、ふたりの名前を呼びたいはずなのに、最初から最後まで、徹頭徹尾、ひとことの声もなかった。
見事にしんと静まり返った会場は、迫力があった。
CORONA禍での開催に、汚点となる傷ひとつつけてはならないというファンの気概を感じた。
いつか会場の歓声が解禁になったら、もう二度とこんなライブは観られないのだろう。それはとても嬉しいことだ。でも、何年か後にはこのライブも、きっと貴重な思い出になると思う。
その夜私は、信じられないほどぐっすり眠った。
KinKi Kidsの愛のおかげだと思う。
通りすがりの観客でさえ、こんなにたっぷりの力をもらえた。
どうしてかわからないけど、すごく元気になった気がした。
ありがとう、KinKi Kids。
ありがとう、ファンのみなさん。
ありがとう、空ちゃん。
25周年、おめでとうございます!