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「やってみた」の最後に

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 この半年、いろんなことを「やってみた」。
 最後に「やってみた」ものをご紹介してこのマガジンを終わりたい。
(そしてこの最終回だけ、なぜかですます調ではなく「である調」。統一感なく申し訳ない)。

 電子書籍とペーパーバックを作るまでの間に、いろいろなサイトやブログを参考にした。

「〇分でわかる」とか「こうすればOK」みたいな紹介記事や本を参考にしてその通りにすればよかっただけなのだが、なんとなく、「どうせやってみるならそのプロセスを楽しみたい」という気持ちがあった。

 検索ワードをあれこれ変えながら調べていたら、とあるブログで「本が1冊からでも作れる会社がある」という記事をみかけた。

 「One Books」、というサイトらしい。

 早速検索してみた。

 それまで、自費出版と言えば、一度に大量に発注しなければならず在庫を抱える、という思い込みがあった。100部、300部といった最低部数の壁があったのだ。

 ところがこの会社では、「1冊でも100冊でも単価が同じ」とある。

 びっくりした。

 そんなところがあるんだ、と目から鱗。

 同人誌などによく使われている会社だということで、コミケやフリマの会場などに直接搬入もしてくれるという。

 Amazonのペーパーバックは、ちゃんとISBNもつくし、金額もついて市場で売ることができる。立派な本だ。装丁も、まあ、洋書だと思えばかなりの出来だ。

 そこで満足すればいいだけの話なのだが……

 ゴゴゴゴゴゴ……
 このみらっちには夢がある!

 文庫本が欲しいのだ!

 ただ自分だけのために!

 私の小説作品はエンタメで、私以外にはあと1名ほどしか楽しむ人がいないが(サトちゃんは楽しんでくれている)、とにかく書いて読んで私は楽しい。シリーズものだからいっぱい、シリーズがある。

 たとえばシリーズが10あって、100や300といった部数を何十万何百万もかけて発注したら大変なことになる。が、1冊1万円でできるとしたら、10冊作って10万円だ。

 全く儲からないものに10万なんて大金だが、それでも死ぬ前に自分の夢はかなう。少なくとも自分は楽しめる。

 おおぅ、素晴らしい会社があったものだ。

 私はだいぶ興奮したが、とりあえず今すぐ原稿のあるものといったらアレしかない。

 『駐妻記』。

 まずは、これを刷ってもらおう。
 だって今すぐ見たいのだ、自分の「文庫本」。
 電子書籍とペーパーバックを実現したこの勢いで、やっちゃえ、みらっち。

発注とマニファクチュア

 早速作業に取り掛かる。
 作業自体は、Amazonでやっていることと大差がないので、比較的簡単にできた。原稿と表紙のサイズを調整して入稿するだけでいい。

 使用できる用紙が選べて、リストにずらりと並んでいるが、正直どの「紙」もまったくイメージできない。グラム数が書いてあって、どうやら重さで紙の厚さを判断するらしい。自分の持っている文庫本を持ってきて、どんな感じだろうと想像するしかない。

 とにかく、やってみればよかろうなのだ!
 だいたい真ん中らへんを選んでおけば間違いないだろう(←適当)。

 本文の用紙は、ミステリッククリーム32kg。
 表紙は、紀州の色上質 超厚口 おまかせ(1色)。
 カバー用紙は、コート(オーロラ)135kg。

 このへんを、選んでみた。

 とはいえ、今、Amazonで『駐妻記』を多少なりとも買ってくださる方がいて、少しずつ読んでくださる方もいて、10円、50円、100円、200円というロイヤリティとして受け取る金額が貯まってきている。

 それをはるかに凌駕する金額をかける意味があるのか、どうか。

 悩みに悩んだが、見積もりが来て驚いた。

 文庫本サイズ288ページ、1部単価、1,428円。

 えっ。
 何度もガン見したが間違っていない。

 うそマジで?
 本当に1,428円で文庫本、できちゃうの?

 当然最初は1冊でお願いしようとしたのだが、送料と諸経費がかかる。
 これは1冊でも100冊でも変わらない。
 おもわず、5、と打ち込んだ。なんとなく。

 思えばなんで「5」なのかわからない。
 あの瞬間はちょっと狂っていたに違いない。
 Amazonのように校正刷りがくるわけではないのに、いきなり5冊とかどうかしていた。

 まあもう、これは今さら仕方がない。
 実家とセイラと知人に進呈しよう。

 ところで、金額に関しては、本当に妥当なのか悩んだ。
 100冊売れると確信のある人にとっては製本に1冊1,428円は高すぎる、と思うだろう。逆に製本の精度にこだわりのある人は、逆にこんなに安くできることに不安を抱きそうだ。

 いったいどんな本が来るのだろう。

 ワンブックスさんでは、安くできる理由を、「校正をせず、作業工程を簡略化しているため、原稿の解析度が低くても、ページに間違いがあってもそのまま印刷する。また、入稿から製本まで時間がかかる」からだと説明している。他社と比べて安すぎることに不安を覚える人もいるということなのだろう。

 要は会社では印刷のみを請け負うということだと了解した。
 装丁が上手くできなかったら、それは自分のせいだ。

 でも、心は決まっていた。

 「やってみよう」と心の中で思ったならッ!
 その時スデに行動は終わっているんだッ!

 ———つまり私はもうその気になってしまったので、「やらない」という選択肢はない状態になっていたわけです。

 流れとしてはこんな感じ。

WEBから予約申し込み
 ↓
 受付メール
 ↓
 見積メール
 ↓
 支払
 ↓
 入稿
 ↓
 製本
 ↓
 配送

 入稿するときも、Googleドライブでビクビクしながらなんとか入稿。何をするにも、心不全を疑うほどドキドキした。あと30年若ければ恋と間違うくらいのドキドキだ。

 入稿を受け付けましたという連絡が来て、しばらくしてから「背表紙のタイトルが真ん中からズレてますけどいいですか」というメールが来た。

 校正せずにそのまま印刷という話だったが、さすがに見た目に「これじゃあね」というものは、連絡をしてくれるのだとわかった。

 しかし、実を言うとCanvaは簡易なデザインツールだから、そのへん、緻密な作業には向いていない

「真ん中にするって、どうやれば……」

 途方に暮れて、結局定規を持ち出した。
 画面を実寸で測ったのだ。
 それで再度入稿したらOKがでた。

 すごいマニュファクチュアだ。
 しかし、このマニュファクチュアが結構楽しい。

これまでのマニファクチュアと完成品のできばえ

 中学生の時は、400字詰め原稿用紙に書いていた。

 なぜなら作家さんがエッセイなどで、今日は何枚書いた、とか、原稿用紙にして何枚、などという表現を良くしていたから、小説は原稿用紙に書くものだと思っていたから(サトちゃんはこの辺の原稿から知っている)。

 原稿用紙は書くのも読むのも大変だったので、高校生になるとレポート用紙に書いた小説を、厚紙と製本テープで自力で製本していた(中身はシャーペンで書いた手書きだから、薄汚れていたり、消しゴムで消した後に書きなおしたところなどがあるまま、製本。これもサトちゃんは読まされている)。

 大学生の時はワープロを使えるようになった。
 感熱紙に印刷したらどんどん消えていくので、慌てて穴あきレポート用紙(無地)に印刷して、バインダーで綴じた(サトちゃんはこれを家に宅配されている)。

 結局それでは限界があり、作品はあれどもサトちゃんに読んでもらえないまま、今に至っていた。

 今回「Romancer」でラインにURLを送ればそこで縦書きの電子書籍として読めるようになり、感慨深さに二人で泣いた。

「いつか、本屋さんで売っているような状態で読みたい」

 これは、二人の悲願だった。

 ついに、夢がかなう。

 さて。
 あとは到着を待つばかり。

 かつて「学研のおばちゃん」の歌があったが、あの歌の気分を久しぶりに味わった。「まだかなまだかな~♪」という、あれだ。

 そしてついに今日、完成品が届いた

 てってれ~!

 予定日が(というと出産のようだが)3月3日だったので、予定より10日ほど早く出来上がった。

 実際、素晴らしい出来だった。
 フォントとページのバランスも、売っている本と比べて遜色がない。

 でも残念なことに、Canvaを目視で定規で測った限界がそこにあった。

 表紙がズレていた

 確かに背表紙のタイトルはきっちり入っていたが、全体が左にずれていて、タイトルが少し折り込まれている。

 もちろん、私の計算ミス。

 そして、表紙の手触りが想像とは少し違った。

 文庫本の表紙は本来、ツルツルしている、というのか、テカテカしている、というイメージだが、今回のオンデマンドではちょっとフロスティな肌触り。

 うん、勉強だ。

 これはこれで仕方がない。
 中身は本当にお店で売っている文庫本の読み心地だ。
 ま、表紙が気に入らないときはカバーをかけちゃえばいいのが、文庫本の良いところでもある。

 まずは、こんな風にきれいに仕上がることがわかって、よかった。

 今後作ることがあれば、表紙はこの原稿をデフォルトにすればいいはず。

 あと、申し込むときは、最初は1冊にしよう。
 送料と手数料が同程度かかっても、「ちょっと失敗」が2冊、3冊できるよりはマシ(←最初に気づけよって話)。

 再印刷は原稿を改めて入稿しなくてもしてくれる。

 ちなみに、ワンブックスさんでは、帯までつけることができるようだ(帯もデザインを計算して合わせないといけないけど)。

 とりあえず、若干の微妙な出来栄えから、サムネの写真は裏表紙のみ。笑

同じものを読む人は遠くにいる

 さて、『駐妻記』は最初から外部に向けて書いたものだから、電子書籍、ペーパーバック、そして文庫本のこの形でOK。大満足だ。

 しかしエンタメ小説のほうは、決して万人向けではない。いちおう、WEBでは少しずつ公開していく予定だが、どれほどの人が気に入って読んでくれるかはわからない。本にするかどうかは今の時点では未定だ。

 少なくともWEBまで来てくれる方は、「みらっちさんてどんなの書いてるんだろう」と興味を持ってくれるごくごくわずかな人だと思うし、その中でもお話を気に入ってくれる人はきっとさらにさらに、砂漠で砂金を探すレベルの邂逅になる。

 『独学大全』で読書猿さんが書いていた言葉を思いだす。

 同じものを読む人は、遠くにいる。

読書猿『独学大全』より

 これはすでに世界にある本についての名言だ。
 世に出てもいない私の小説なんてとるに足らないものだが、興味を持って覗きに来て、ちょっと好きになってくれたら、それはきっと「遠方の同士」なのだと思う。

 こんなところで例に出すのはなんだが、この記事でちょこちょこ名言が飛び交っている漫画『ジョジョの奇妙な冒険』は爆発的な人気がある一方、アンチも多い。お話や設定は確かに奇妙で変わっているし、絵柄も独特、何もかもに「癖」がある。お話についていけない人、絵柄が苦手な人も沢山いる。実際、私もそのひとりだったことがある。なんとなく絵が好みでないという理由で、つい最近まで読んだことがなかった。ところが一度その世界に触れたら、まるでスタンド攻撃にあったように虜だ。そんなこともある。

 ド素人の私が荒木飛呂彦先生の漫画をこの文脈で引き合いに出してはいけなかったが(ファンの皆さまごめんなさい)、ともかく万人受けはしないまでもコアで熱烈なファンがいる作品はいくらもある。小説もそう、音楽もそう。世界はおもちゃ箱みたいなもので、全員が同じ玩具ばかり好きなわけでもない。『ワンピース』だって『ドラゴンボール』だって好きじゃない人はいる。

 以前は「私の話なんて面白いと思う人はいないだろう」と思っていた。でも、それはみらっちの勝手な思いこみでしょ、そう言ってくれたのは、サトちゃんだった。決めつけなくてもいいんじゃない?

 いろいろと、タイミングは遅かったかもしれない。
 もう少し若ければ、もっと、何かできたのかも。

 でも今回、いろんなことをやってみて思う。
 今だからできることもあるし、やろうと思ったら、できた。
 つまるところ、やろうと思えばできるんだ、と。 

 今、公式に来てくれているかた、そしてWEBを時々覗いてくれるかたが何人かいることは、本当に本当にありがたいことだ。
 おひとりおひとりとの出会いが稀有で、貴重だ。
 もし、その中から、これから私の話を気に入ってくれる人がたったひとりでもいたら、それは奇跡のめぐり逢いだ。

 これまで私はサトちゃんがいるから書き続けてこられた。
 だからサトちゃんと見た夢は、できる限り叶えたい。
 
 その夢にまた、1歩近づけたと思う、ワンブックスさんとの出会い。
 もしこの先、奇跡のめぐり逢いが起こったら、私の夢はまた広がるのかもしれない。

 それを味わって楽しみたい。
 そう思うことができた「やってみた」だった。

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