3つの名前
中国人が留学生として
来日した際は、
本人からの特別な希望がない限り
日本語学校の教師が
彼らの名前の漢字を日本語の音に変えて
呼び名を決めます。
10年ほど前の男子留学生には
名前が「飛」という漢字1字の子が
多かったのですが、
日本語の音だと「ヒ」と読むので
「ヒさん」と呼びながら
日本人としては
名前が一音なことに違和感を持ちました。
中国語読みだときっと
かっこいいのでしょうね。
内モンゴル自治区の学生は
内モンゴル人とはいえ
中国人なので、
日本に留学すると
モンゴル語の名前に
特に思い入れがない学生は
中国語名で入学します。
彼らには
モンゴル語の名前と
中国語の名前と
中国語の日本語読みの名前、
音だけで言えば
3つの名前が存在します。
内モンゴル人というのは
モンゴル人であっても
モンゴル人とは少し、
違う印象があります。
モンゴル人は
遊牧民族で大らかな
印象なのですが、
※つまり、
あまり学校に来ないことも😆
内モンゴル人はとても真面目で
熱心に授業に参加し
よく発言します。
もちろん漢民族とも
彼らは違うのですが、
中国人名で来日し
流暢な中国語を話して
見た目に変わりもあまりないので
見分けるのは難しいです。
さて、今年は専門学校の2年生で
一番レベルの高いクラスを
教えています。
コロナ禍中に入学した学生ではあっても
日本語能力試験の最難関であるN1に
合格するレベルの子たちです。
私がこのクラスで教えているのは
「企業経営論」という科目で、
正直、学生にとって
資格を取るための
日本語科目や簿記のように
熱は入りませんし、
マーケティングのように
面白くもありません。
それなのによく勉強し
私がついでに言ったことにも
メモを取り、
スマホで調べたりしながら
熱心に授業を受けています。
その中で
最も優秀でよく発言する
女の子がいます。
中国人だと思っていたのですが、
あるとき、ノートに
モンゴル語を書いていて
中国人じゃない訳ではないけれど
内モンゴル人だということが
わかりました。
彼女の斜め後ろに
寡黙ながら熱心で
やっぱり能力の高い男の子がいます。
ある朝、
私が専門学校の校舎から
併設の日本語学校の校舎に
移動するために
歩いていたら、
この優秀なふたりが
手を繋いで仲良く
歩いて来ました。
「仲良しね!」
と声をかけたら
恥ずかしそうに笑っていました。
すごく優秀なカップル!
目鼻立ちのキリッとした
超絶美女の女の子と
朴訥としつつ温和な男の子は
とても似合っていて微笑ましく、
嬉しくなって同じクラスを
教えている先生に報告したら
「あの2人は夫婦なんですよ。
2人とも内モンゴル人でね」
と教えて下さいました。
夫婦で、同じ学校。
これはよくいるのですが、
同じクラスで、席も近い。
これはとても珍しいです。
両方とも優秀。
すごいな。
一番優秀だったこの奥さんは
夏過ぎ頃から
ぐったりとし始めて、
途中、
ちゃんと断りを入れつつも
退席したりし始めました。
2年生は夏ごろから
就活やら進学やらで
ストレスもかかりますし、
勉学に身が入らなくなります。
2年生だから仕方がない、
きっと大変なんだろう。
と、思っていたら、
冬休み明け。
出席簿を開けたら
彼女の名前に線が引いてあって
「休学」
と書いてありました。
しまった‼︎‼︎
既婚で、途中ぐったりしていて
休学。
理由は一つしかありません。
このクラスに週2回
入っている先生に聞いてみました。
「子どもがね、もう産まれるんですよ」
やっぱり!
「つらくても
全く休まないで
頑張って来ていましたがね、
もう明日、明後日じゃないですかね」
お腹の大きい学生というのは
毎年、どこかのクラスにいます。
私は自分が
つわりが酷かったこともあり、
妊婦の学生には極力
気を遣うようにしていたのですが、
この子の場合はいつまでもスリムで
全然気づきませんでした。
悪いことしたな。
ぐったりしていたのは
体調がつらかったんだろうな。
ある日、旦那様に聞いてみると
「昨日産まれました」
とのこと。
お祝いのことばを伝え、
奥さんのお腹に全然気づかなくて
気を遣えなくてごめんね、
と言ったら
にっこり笑って
3,200gの可愛い男の子の
動画を見せてくれました。
産まれたてなのに
しっかりしたお顔の
賢そうな赤ちゃんでした。
名前を聞いたら
「敏晴(としはる)」ですって。
※仮名です。
ああ、ちゃんともう
日本語名があるんだね。
きっとモンゴル語名も
中国語名も
あるんだろうな。
生まれながらにして恐らく
3つの名前を持った男の子。
よかったね。
きっとこれから楽しいことが
たくさんあるね。
本当に、おめでとう。
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