見出し画像

【企画参加】サンセベリアの祝福

植物だって
人の気持ちに応えてくれるって
思っています。

私が日本語教師になる前に
長く勤めたオフィスでは、
毎週必ず、入り口に生花を
飾っていました。

私はこの会社の
地味でも上品な佇まいが好きでした。


面接で初めて来たとき、
あまりにオフィスの空気が、

そんなこと分かるはずがないと
反論されるかもしれませんが、

本当にそこの空気全体が、
入室した瞬間から何というか静謐で
こんな素敵な空気感の
会社に入社したい!と
思ったものです。

このオフィスでは
毎朝必ず15分間
社員全員で掃除をしていましたし、

社長は率先して
トイレ掃除をしていました。


オフィス家具はありふれた
特に高級感の無い平凡なものでも、
パソコンのキーボードから
複合機、天井、冷蔵庫に至るまで
どこだって、いつだってピカピカでした。

お客様には高級な美味しいお茶を
お出ししてくつろいで頂くために、
人形町の有名なお茶屋さんへ
買いに行っていました。


コーヒーは上質な豆を
もちろんドリップで
丁寧に淹れていました。


入り口のお花は
お客様がいらっしゃって
一番最初に目につくものだから、と
気の利いた花屋さんで
取り寄せていました。


オフィスは土日は休みなので
生花は悪くなってしまいます。
土曜出勤したスタッフは
帰りに持って帰って良いため、
忙しかった部署の私は
毎週のように頂いていました。


自分では買わないような
オシャレで気の利いた
季節の花。


持って帰ってからも
短くても1週間は美しいまま
咲いてくれるのです。


いつもうっとりして
眺めていました。



そのオフィスには観葉植物が
たくさんありました。


私が入社したとき、
細身で目の大きく
よく動く若手の有望株Tさんが
いつもその植木の世話を
していました。


私は割と植物の好きな方なので、
Tさんが忙しいときや
休みや外出のときに、
入り口の生花と同時に
植木の世話もしていました。


やがてTさんは
別オフィスに異動が決まりました。


彼の異動直前のいつだったか、
朝、Tさんに呼ばれて
植木の世話の仕方の引き継ぎを
受けました。

栄養剤のあげ方などを
それは事細かに。


その引き継ぎがあまりに
熱心だったので、
自分が大切にしていた植物の
行く末が心配なんだろうな、と
後継として責任を
感じたものでした。


やがて私たちは
交際を始めました。



私は彼の後継として
引き継いだオフィスの植木を
毎日大切に世話していました。


植木の中で
一番数が多かったのが
サンセベリアです。

日本名をトラノオ、と言います。
葉が鋭く剣のような形の
深緑の観葉植物です。


花は滅多に咲きません。


Tさんと私は
長年交際していましたが、
ようやく結婚がまとまり
朝礼でそれを報告しました。


その直後のことです。


廊下に置いてある
サンセベリアに
なんと蕾がついていたのです!


それはあっという間に咲いて
あれよあれよと言う間に
他のサンセベリアにも蕾がつき、
オフィス中が甘い香りで
包まれました。


当時の彼の直属の上司で
このオフィスの責任者の社長は
それを見て、私に寄ってきて
普段は滅多に笑いもしないのに
そのときは珍しくにっこりして
言いました。


「観葉植物も二人を
 お祝いしたくて
 花を咲かせたんですね」



結婚してから彼は
小さなサンセベリアの鉢植えを
買ってきてくれました。


それはぐんぐん育ち、
1鉢が4鉢に
4鉢が16鉢に、というように
ねずみ算式に増えて行きました。


我が家では育てきれないので
鉢を様々な知り合いに
引き取って頂き、
そのうちの何鉢もが
今も彼の働くオフィスにあります。


我が家では今、3鉢
当時のサンセベリアを
育てています。


結婚して今年で14年。


なかなか咲かない花は
2度、咲きました。


上手な方ならもっと
咲かせられるのでしょうがね。


1度目は東日本大震災の後
留学生が軒並み帰国してしまい、
日本語教師の就職が
超氷河期だった時代に、
私の就職が決まったとき。


その次は
子どもなどできないと
諦めていた私たちが
赤ちゃんを授かったとき。



これは偶然なのでしょうか。



私は勝手に思っているのです。

サンセベリアはきっと
世話した私たちのお祝いに
花を咲かせてくれたんだ、って。


だから結婚が決まった時の
私の嬉しい思い出は、
いつだってサンセベリアの
白い花の甘い香りと一緒なのです。



ーーーーーーーーーーーー


こちらはともきちさんと
yuca.さんの共同企画である
『お花とエッセイ』コンテストに
募集したものです。


多忙により
通常の記事さえあまり
書くつもりもなかったのですが、
スイッチが入ってしまい
一気に書き上げました。


ともきちさん、yuca.さん、
この高揚感を思い出させて下さって
ありがとうございました✨

お陰さまで
幸せな記憶だけを集めた
嬉しい記事が書けました。


皆さんもぜひどうぞ!


いいなと思ったら応援しよう!

みおいち@着物で日本語教師のワーママ
ありがとうございます!頂いたサポートは美しい日本語啓蒙活動の原動力(くまか薔薇か落雁)に使うかも?しれません。