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刻一刻物語

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時間と場所と記憶と夢と。 とりとめがないけれど、 いつか思い出すための物語格納庫。
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#記憶

力を得るもの

力を得るもの

 しろい、しろいしろい細かな粒の中を、体ごと進んでいる感覚。
 落ちているのか、飛んでいるのか。
 ふと、目を開けてみたら粒が目に入りそうになって慌ててまたぎゅっと目を瞑った。
 ずっと夢を見ていたような気がするのだけれど、なんだかそれも曖昧で、どうでもよくて、とにかく自分は今、何処かへ行こうとしているようだ。
 そうしてそれは自分の意志ではなくて、何か大きな抗えない力に押されているのか、引っ張ら

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静脈と動脈、ハサミと剃刀のダンス

静脈と動脈、ハサミと剃刀のダンス

  笑え、笑え。
  踊れ、踊れ。

 その昔、さんぱつ屋は戦争中に召集を免れた半島の人たちがやっていた商売だったという。
 それはそう、当時日の本の男という男達は、皆駆り出されてしまったのだから。
 
 戦時中でも髪はのびる。

 とつくにの人種ということで強制をかわせた人たちの小さな店は、それでも必要とされたからそれなりに役に立っていたのだ。

 ごらん、あの角の青と赤の
くるくるが回ってる古

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記憶を売る店

記憶を売る店

 古い市場の中を歩いていた。シャッターが閉まったままの店舗が増えて、寂しい感じがするが、再来年には創設100周年を迎えるという長い年月を経てきた市場だ。
 乾物屋やお惣菜屋、魚屋、漬物店などが元気に営業中だ。

 ふと、見慣れない店があるのに気がついた。古いガラスケースや木製の古い棚にごちゃごちゃと色んな物が置かれている。
 最近できたのかな?アンティーク、というよりはガラクタに近い商品の数々。

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SとTの海物語

SとTの海物語

「海へ行こうか」
「海に行こう」
「間に合うかな」
「今は午後0時15分だから干潮が始まってる頃だ」
「それだったらちょうどいい」
「今から河を下っていけばちょうど砂浜が見られる」
「蟹がいるかな」
「エビもいるよ」
「ヤドカリはあわてて砂にもぐるよ」
「楽しみだな」
「楽しみだ」
「ところであの古い市場の魚屋の裏に海があるのは知ってたかい」
「海があるのかい」
「小さな海なんだ。魚屋の裏手に駐車

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