
「やりたいことがわからない」をひっくり返す方法
「やりたいことがわからない」の原因は、意外にカンタンなことかもしれません。おそらくは、候補職の内容がはっきりわからないから。
職業には、業務内容が丸見えなのと、全然なのがあります。お医者さまとかレセプショニストなどが、見えやすい例かな。
一方、第三者の認識と現実が違う職業もあります。スポーツ選手とか、私ことmintもその部類であるピアニストなどの演奏家とか。スタジアムで試合をしたり、コンサートで弾くのが仕事と思いきや……業務の大部分は練習や準備。人前に出てくる時間はほんの一瞬に過ぎません。
こうした両極端を除くたいていの職業って、その中間。「やってみたいか」を判断できるほどの実態までは、部外者からは見えにくいものでしょう。オフィス系のお仕事なんかが良い例。イーロン・マスクさんも、職場のサエない上司も、おんなじ格好でデスクに座りパソコンに向かってはいても、業務内容は別物です。
その見えない業務が向いてそうか?やりたいか?は、わからなくて当たり前。更に、「見る」と「やる」では大違い。面白そうでも「やってみたらとんでもなかった」とか、その逆も……。
実態にびっくり、有名歌手マネージャー
アラカンのmintも未だに「やりたいことがわからない」の波はありながら……。やってみて「あっ、これがやりたかったのかも」と気づいた経験なら、結構あります。
例えば、芸能マネージャーがそう。出産後に再就職した音楽事務所には、外タレの制作スタッフがやりたくて入りました。ここでは先輩男性のYさんが、すぐそばのデスクで日本人有名歌手のマネージャーをしていました。その割に、彼が何をやっているかはよく知りませんでした。
ある日、外タレのツアーでアクシデントがあり、Yさんはその現場に急行。担当歌手にはホテル・ニューオータニ内ショーパブでのステージが入っていたのに、同行マネージャーが不在……。他の社員もそれぞれ現場がありました。
そこで、まだ仕事に不慣れだったmintに代役の白羽の矢?が……。子どものお迎えは夫に頼めることになり、しぶしぶオーケーしたものの、ビビってしまいました。
mint「マネージャーって、何をすれば良いんですか?
私にできますか?」
すると、別の先輩マネージャーと現場慣れした後輩くんが、ニコニコと口を揃えました。
「大丈夫! 行って、おはようございますと言えばいいんだから」
mint「え? それからどうすれば?」
二人「それだけだよ。とにかく行けばいいから」
何度聞いても、それ以上の情報は得られなくて。「行くだけ」なんて仕事、本当にあるの? 不安しかないけど、行くしかありません。で、行ってみたら本当でした。
恐々と会場に入ると、クライアントの担当者と舞台監督が飛んできて、自己紹介してくださり。ちょうど付き人さんと会場入りしてきた歌手と一緒に楽屋へ。歌手が「美味しいから食べてみて」とキッチンに注文してくれたステーキサンドを堪能し、リハに立ち会い、本番は会場座席でドリンクをいただきながら拍手をしていました。
スポットライトを浴びて輝く歌手の美声に聴き惚れながら、「マネージャー、やってみたいかも」。で数年後、mintはその歌手のマネージャーに収まっていました。
この会場は期間契約の仕事で、音響はカラオケだったので、マネージャーとしてやることがなかっただけ。実際は楽譜配備やバンドさんの誘導、照明・音響の指示、マスコミ取材の対応などが現場で必要なハードワーク。「行くだけでいい」訳ではもちろんありません。
それでもこの仕事には、最初から本能的に呼ばれるものがあったんですね。
このように、その場に行ってやってみるまでは、「やりたいこと」ってわかりづらいです。
NYのリハーサル・スタジオで、「えっ? 聞いてません!」
最近NYでもありました、「オーケストラ・アレンジ」というブラックボックス体験が……。
きっかけは、ライブで共演していたバイオリニストのキャロルとお茶した時にかけられた、何気ない一言。(冒頭写真バッハ・コンチェルトでソロを弾いてる女性)「あなたのピアノ曲はユニークだから、弦楽四重奏にアレンジしてみない?」と。
音大卒でないmintには、クラシックなんて別世界。だけど弦楽四重奏なら、高校生の時に書いたことはあるし。深く考えずに「目新しいこともたまには」と了承。それがフタを開けてみたら、実はオーケストラとのことで……。
mint「あの〜、弦楽四重奏のはずでは?」
キャロル「いいじゃない、パート譜其々を3枚づつプリントするだけだから、同じでしょ? あ、次回のリハはベースも来るって」
え? コントラバスの楽譜も要るってこと?
仕方なく、なんとか楽譜を用意してリハに行ってみたら、本格的なオーケストラで仰天! フルートのブロンド女性が「フルートの楽譜も書いてくれませんか?」
え? こんなはずでは……。
こうと知ってたら、面倒くさがりやのmintはきっと逃げていたでしょう。でも「なんてこった」と始めたら、楽譜作りが楽しい!
人間、夢中になれば時間の経過が早いとはいえ……。オーケストレーションの作業では、過集中のmintも経験したことがない速度です。「4分ぐらい経ったかな?と思ったら、4時間過ぎてた」とかね。
先日のコンサート(↑↓)では、mintのクリスマス曲がトリに演奏されて。観客の方々には「エンディングにぴったりだったね」と喜ばれたようで、ホッとしました。


自分を最新アップデートにする鍵
以上のように、「やりたいこと」はやってみるまでわからないことが普通にあります。ところが世の中では、「やりたい目標を明確に持ち、それを目指して成長を」との姿勢が正当とされていて。特に日本では重圧がありそう。
これでは、焦ってしまいますよね。確かに、前世紀までの多くの職業は、到達ルートや中身がガラス張り。やりたいことの見当はつけ易かったでしょう。でもAI台頭、学歴・資格不問のwebカタカナ職業がドル箱の現在、社会通念まではアップデートされていません。
なので、躍起になって「絵に描いたモチ」を探すよりも、通念の解釈をひっくり返してはどうでしょう? 「やりたいことって、探すべきなのか?」と……。
近年求職は売り手市場とも聞くけど、結局は選ばれないと仕事には就けません。いきおい応募した中で、比較的向いたところに呼ばれることになります。採用担当者や審査員・フォロワーは、志願者の自己評価とは違う視点から適性を見ていますから。
当落の決定は当方がコントロールはできないので、考えたって意味ありませんね。
だとすると「やりたいこと」は、自分で探すだけのものではないのかも。与えられた業務に就いて自分を知る過程で、徐々に意欲が花開いて香り、ご縁に出会っていくのではないでしょうか。
また前回↑書いたように、ほんの数か月でも「海外に住んだ」などの小さな経験が、何十年後かのチャレンジの背中を押すかもしれないし。mintの高校音楽の宿題「弦楽四重奏」たった1曲が、半世紀後の思いがけない展開に引き込んだように……。
今のあなたも私も、未来の宝箱をひっくり返す鍵を既にいくつも持っています。だから難しく考えず、一足早いけどまずは「メリー♪クリスマス!」
