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【掌編小説#13】歳-サイ-

「42歳って金銭的にも気持ち的にも余裕がある大人じゃないの?」
「あのね、意外と気持ちなんて25歳とそんなに変わらんよ。金銭的なものは今後の努力次第だろうね。まぁ大した努力もしなかったからこうなってるんだけどな」

「はぁ…思ったのと違うな。」
「どんな風に思ってたの?」

「なんて言うか…何事にも動じず全て余裕で生きる頃なのかと思ってた。」
「おれもそう思ってたよ。実際なってみるとこんなもんだった。」

「今からでもちゃんとしたら?」
「ちゃんとって何だよ?」

「余裕で生きてる人にちゃんとなるって事さ」
「ん〜、多分なれないんだよ。25歳から42歳がこうなわけでしょ?きっとこれがいくつになっても根っこは変わらずよ。人見知りで、おしゃべりは苦手であわあわしながら生きてるんだと思う。相変わらず嫌な事、辛い事もあるし。でも面白いことをやって楽しく生きてるよ」

「そうか。楽しいならいいか。」
「一つ言っておくとすれば身体のケアはちゃんとしておきなよ。確実に老いる。あと、結婚して離婚する」

「知りたくなかった情報だな」
25歳は笑いながら顔を顰めた。


「まぁ、知ったって仕方ないけどな」
老いた男が声を掛けた。

「あんたは?」
「61歳だ」

「ふ、老けたな…」
「苦労したからな。まぁ好きに生きろ。なるようにしかならん」


25歳が描いた未来とは違っていた42歳、そして61歳。
持って生まれたモノは変わらないらしい。


「ちょっと待ってよ!」
3人の後ろから小さな子供が声をかけた。


「お前は?」
「10歳だよ!」


「じゅ、10歳!こんなだったっけ」
「プ、プロ野球選手は?なれなかったの?」

「ご、ごめんな…」
25歳と42歳、そして61歳の僕らは寸分の違いも無く、声を揃えて謝った。


〈完〉



【解説と言う名の言い訳】
掌編小説13作目です。
以前も書きましたが内省的な作品です。
自身のそれぞれの年代との対話と葛藤をあまり深刻にはならない雰囲気で描いてみましたが…設定が在り来りな気もします。改めて物語を書くって難しいですね。
25、42、61歳は男の厄年という事で年齢設定しました。

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『アラフィフになっても余裕が無い者』
ミノキシジルでした。



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