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海辺のお供#1 自分の正直な思いを大切にしたくなる小説『水曜日の手紙』(森沢明夫)

こんにちは。各地で紅葉が進み、いよいよ晩秋も近づいてきました。12月を間近に控え、本当に今年はこれで良かったのだろうかという思いがむくむくと頭をもたげて来ながらも、きっと毎年のごとく師走のせわしなさに翻弄されることでしょう。

さて、今日は自分の正直な思いを大切にしたくなる小説をご紹介します。森沢明夫の『水曜日の手紙』です。

水曜日の出来事を手紙にしたため投函すると、「水曜日郵便局」が見知らぬ誰かの手紙を届けてくれる、というコンセプトを元にしたお話です。一回きりの交換日記、といったイメージでしょうか。この「水曜日郵便局」は今は閉局しましたが、2017年12月6日~2018年12月5日、鮫ヶ浦水曜日郵便局として一年限りの期間で実在しました。

忙しい毎日の中で、自分の夢、本当に大事にしたかったこと、幼いころに憧れたことを忘れてしまうことは無理もないことでしょう。そしてそんな日々を送る中で、自分の夢を叶えている友人が近くにいたら――嫉妬の思いに身を焦がしてしまうかもしれません。

自分の抱えきれなくなった思いを、どうにかやりくりしていた主人公たちはふとしたきっかけで、この「水曜日郵便局」の存在を知り、手紙を恐る恐る出してみます。それは自分の夢が叶った物語をのせた手紙や、自分の決意を語る手紙でした。

全く他人の物語を手紙で受け取る、というのは想像以上に効果の大きいもので、そこには妬みやひがみの感情は生まれず、自分と同じような気分でいる人がどこかに、でも確かに存在することに勇気づけられます。また、自分の思いを文字にすることは自分の意思を強く確認することにもなり、生活を少しずつ変える一歩となります。

物語の最後には爽やかな雰囲気をまとった主人公たちを見ていると、真似して自分のありったけの思いを便箋に託してみたくなるかもしれません。

海の青色とレモン色の温かい光の描写が、海辺の気持ち良い風景を思い起こしてくれます。改めて自分の今を見つめ直し、素直な一歩を踏み出す決意を固めすがすがしい気分になれる、そんな小説です。

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海辺のお供にこの一冊。

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