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本物の魅力
自宅が都内から遠い関係で、一度家を出ると戻ってこられないからいつも荷物をたくさん持ち歩きがち。
でもそうすると、すごく肩がこる。
重いカバンの中で、その重さの半分を占めるのは13インチのMacで、残りは本だ。
Macの重さはどうにもならないので、では、本をどうにかしようと考えた。
そこでここ1年程kindleを使っている。
一つの端末で何千冊も持ち歩けるのはすごく便利。とても軽くて、バックのポケットに入るところもお気に入り。
だから最近は紙の本をひさしく買っていなかった。
でも数日前、クリスマスに浮足立った街の雰囲気に踊らされたのか、自分にプレゼントを買いたい衝動に駆られた私の足は自然と本屋に向っていた。
新聞を読んでいると毎週おすすめの新刊の記事がある。批評家や、専門のライターが文章とともに新刊を紹介してくれる。
わたしはそれを読むことを毎週すごく楽しみにしていて、数週間前にその記事に載っていたある本が気になっていたのだ。
リチャード・パワーズの『オーバーストーリー』
今年度ピュリッツァー賞受賞作の、木のお話だ。
書店に行き、ほかの本を眺めながらまずはぐるぐると本棚の間を歩き回る。
本に囲まれた迷路を歩いているみたい。
魅力的なタイトルばかり。静かにテンションが上がっていく。
と、同時にそんな魅力的な本から目を背けたい気持ちもある。だって全部読みたいのに、その中から選ばなくちゃいけないなんて、神様はひどい。
ふと、新刊の棚にある、きのこのなんちゃらという文字が目に入ってきた。 きのこなのに、なんだか装丁が美術品みたいに美しい。
いけない、今日は気になっていた本を見に来たのだ、わたし。
それにしてもお目当ての本が見つからない。
自力で見つけたいけれど、諦めて店員さんに聞こうかな、と思いレジに向かって歩く。店員さんに目配せをし、声を掛けようとした店員さんの肩越しに『オーバーストーリー』 を見つけた。
「あっ。」店員さんを半ば無視する勢いで、吸い寄せらるようにその棚へ。
棚に一冊しかないその本は、誰かに見つけてもらうのを待っているみたいだった。
私は分厚いその本を、手に取ってみる。
ずっしりと重い。
大きな木の幹が描かれた表紙を撫でてみる。
美しい。少しザラザラするその表紙にうっとりする。
ああ、これは私のものだ。
棚に一冊しかなかったこの本のもらい手は、私しかいないんじゃないか。
一度そう思ってしまうと、もうダメなのだ。
どんなに迷っても結局その本を買ってしまう運命にある。
しかし分厚い単行本で、お値段も張る。一度その本を棚に戻して、私はまた本屋をあてもなくぐるぐると歩く。
買うか、買うまいか。
ほんとは自分でも買ってしまうとわかっているけれど、えいや!と買うまでの心づもりが必要。
上の空で星占いの雑誌を立ち読みしてみたり、女性誌をパラパラした後、またふらりと『オーバーストーリー』の待つ棚へ。大事に本棚から抜き取り、もう気持ちの上では自分のものになった本をレジへ持っていく。やっぱり高い値段に、一瞬泣きそうになるけれどもう遅い。
そう、私がここで書きたかったのは、
紙の本には紙の本にしかない魅力があるということ。特に単行本は、表紙の紙の質や、色まで全部心を込めて作りこまれている。そして何より、それを手にした時のその重さと存在感。ここにある、ということそのものが愛おしい。
久しぶりに、紙の本を購入して、心が踊った。
その魅力を再確認してしまった。
これからは定期的にきっと本を買いたい衝動がやってきて、またこんな風に宝物を見つけてしまうだろうな。
購入した『オーバーストーリー』は、
ゆっくり噛むように読み進めるつもりだ。物語も、その言葉も、そうして私の一部になっていくだろう。
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