【交流分析の基礎知識⑧】ラケットをストロークしない
参考資料:実務教育出版『TA TОDAY』イアン・スチュアート著
『交流分析事典』トニー・ティルニー著
チーム医療『ゲーム分析』杉田峰康/国谷誠朗/桂戴作著
ラケット感情とは
「ラケット感情」は、本物ではない感情です。
子どものころに本物の感情を表現することを許されない体験をすると、ストロークを得るためにラケット感情を学習することがあります。
ラケット感情が学習されるまで
どの家族にも、表現が許される感情の範囲があります。子どもが男の子であるか女の子であるかによって、許容される感情が異なってくることもあります。
男の子バージョンのラケット感情
たとえば小さな男の子が近所の子どもに追いかけられるなどしておびえて帰った時、母親に「勇敢になりなさい」「しっかりしなさい」などと言われたとします。
彼がその後、日々さまざまな感情表現を試してみた結果「攻撃的になることが母親からもっともよい反応を得ることができる」と発見したとしたら、どうなるでしょう。
彼は近所の子どもに追いかけられてまた怖い目に遭ったとしても、反撃を試みるようになります。母親はこう言うかもしれません。
「よくやったわね。男の子は泣いたりしないわよね」
このようなことが繰り返されると、この男の子はこんな風に考えるようになります。
「攻撃的でいれば、親は味方してくれるんだ。他の感情を示したら、味方してくれないんだ。攻撃的になる以外の感情は、感じることさえやめてしまおう」
そして彼はしだいにおびえを感じても、自分でも気づかないうちに「攻撃」にスイッチを切り替えるようになります。
この場合、「怒り」が彼の「ラケット感情」になります。
(『TA TODAY』第21章の例より)
女の子バージョンのラケット感情
この場合、「悲しみ」が彼女の「ラケット感情」になります。
(『TA TODAY』第21章の例より)
「本物の感情」と「ラケット感情」の違い
感情には本来、このような役割があります。
このような問題解決機能を持つものは「本物の感情」です。
それに対して「ラケット感情」は、その時間の枠組みの中で問題解決の手段としてはふさわしくない感情です。
「ラケット行動」とは
ストロークを得る手段として現れる行動のことで、その人のラケット感情を伴うものが「ラケット行動」です。
その行動はその人の中で正当化され、周囲の人を巻き込み操作しますが、本人はそのことに気が付きません。
「ラケット行動」をとめるには
人を巻き込み操作する「ラケット行動」をとる人がいれば、周囲の人は困りますよね。本人にとっても、「ラケット感情」を感じ続け自分の本心に気づかないまま生きていくのはつらいことです。
周囲の人がラケット行動をとめるには、「ラケット行動・ラケット感情をストロークしないこと」が重要です。
「ストローク」とは、「人の存在や価値を認める言動や働きかけ」のことです。これも交流分析用語です。
ストロークには「プラスのストローク」と「マイナスのストローク」があります。
ストロークとディスカウントについて、詳しくはこちらのマガジン記事でまとめています。
「ラケットをストロークしない」
ストロークされた行動は強化されてしまいます。それが好ましい行動であれば良いのですが、ラケット行動はその場の状況に対しては不適応のものです。
ラケット行動が現れたら、周囲の人はその人のラケット感情ではなく「本物の感情」のほうをストロークしてあげましょう。
たとえば、先ほどの例の男の子や女の子があなたの部下や後輩だったと思ってください。
もちろんこのようなことは、初対面の相手に対しては難しいと思います。家庭や職場、友人関係など、よく知っている相手との関わりの中で実践してみてください。
ラケット行動かどうか見分けることも難しいかもしれませんが、経験を積むとだんだん分かってきます。ラケット行動は「その場の問題解決にはふさわしくないもの」です。
誰かが「なんとなくおかしなことしてるな」と思ったら、「本当はどう感じているんだろう?」と考えてみるところがスタートです。
まとめ
「ラケット感情」は子どものころに学習した「本物ではない感情」
「ラケット行動」は周囲の人を巻き込み操作する
ラケット感情はその場の問題解決にはふさわしくない感情
ラケット行動・ラケット感情をストロークしない
その人の本物の感情にストロークを与える
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