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週末歌仙*葉ノ拾伍

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 82歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

休日の公園。
ベンチにぼんやり座るわたしの前で、小さな子が母親と一緒にどんぐりを拾っている。
風が穏やかで陽射しも心地よい今日は、どんぐり拾いに絶好の日よりだ。
さて、いくつ拾えるかな?

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

ひだまりに
ドングリ拾う 母と子の
背(せな)に舞いくる落ち葉ひとひら

<2012年 陽だまりにて詠む>

<解説>
急に寒さの厳しくなったここ数日、ぽかぽかと陽射しのあたる場所がとても恋しくなりますね。今回の歌は、そんな今の季節を詠んだものです。
「どんぐり」は、俳句では晩秋の季語とされています。実際どんぐりが実を落とすのは9月の下旬から10月、種類によっては11月頃。まさに秋と冬の境目といった時期ですね。ひとくちに「どんぐり」と言っても、実は種類があります。公園などでよく目にするのはマテバシイ(ブナ科マテバシイ属)。細長いフォルムと帽子のような殻斗(がくと)が特徴の、かわいい実です。雑木林でよく見かけるのはクヌギ(ブナ科コナラ属)。こちらは丸い実がもさもさした殻斗をかぶっています。この歌で子供が拾い集めているのは、マテバシイのほうです。
どんぐりは姿かたちのかわいさから、よくクリスマスのオーナメントに使われています。そのせいなのか、晩秋よりも冬のイメージを想起しやすいように感じました。そうなると、ちょっと寒い印象の歌になってしまうので、冒頭に「ひだまり」という言葉を配しました。これにより、ぽかぽかと温かな印象で歌を読み始めることができたかと思います。その印象の中での「背中に舞い落ちる葉」なので、決して冷たい秋風に吹き落とされたのではなく、自然にふわりと落ちてきたという絵面を思い浮かべることができたのではないでしょうか。また、「ひだまり」「どんぐり」とするとメリハリがなくなるので、「ドングリ」はあえてカタカナで表記しています。
少ない言葉で表現する短歌は、冒頭に持ってくる言葉がとても重要です。最初の一語によって、その歌が読者に与える印象が決まると言っても過言ではありません。ぜひ最初の一語にこだわって作歌をしてみてくださいね。
ところで、ころころたくさん落ちているどんぐりですが、そこから発芽できる確率は1%にも満たないそうです。さらに木にまで成長できるのはほんの一握り。今どんぐりの実を落としてくれている大木は、奇跡的に大きくなれた木ということです。そしてその落ちたどんぐりを糧にしている動物もいます。リスや昆虫、たくさんの生き物がどんぐりを冬の食糧として生きていますので、どんぐり拾いの時には、「ひとつ拾ったら、次のひとつは森のいきもののため、その次のひとつは新しい木のため」*に、残しておいてあげるようにしましょう。
(*社会福祉法人こどもの国協会ウェブサイト:https://www.kodomonokuni.org/nature/fall/fall_donguri.html  より)

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
どんぐり

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第二首

(想像してみてください…)

ある晴れた日。
ひとりで雑木林を散策した。
踏み出した足の下でパキッと折れる小枝の音が聞こえるくらい、林の中はとても静かだ。
と思ったら。
木立の向こうから子供たちの笑いさざめく声が聞こえてきた。
どうやらイガグリを探しているみたい。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

落ち葉踏み
栗のみ拾う 子らの声
弾みて聞こゆ静かな午後に
 
<2009年、秋の雑木林にて詠む>

<解説>
さて、もうひとつ栗拾いにまつわる歌をお届けします。
こちらは冒頭が「落ち葉踏み」です。「落ち葉」でイメージするのは、どちらかと言えば「暗」ではないでしょうか? しかも乾いた感じですよね。さらにそれを踏むことで、「カサッ」という音が聞こえるイコール周囲は森閑としている、という状況を想起させようとしています。
ところが、上の句の最後の5文字に「子らの声」が入ったことで、ひとりで歩いていた静かな空間に他者の存在が現れます。そして下の句では弾んだ声が響くのです。つまりこの短歌は、読み進めるごとに場所と時間が移動していくんです。
例えばこの語順を「子らの声」→「弾みて聞こゆ」→「落ち葉道」としたらどうでしょう? 今度は子供と一緒に歩いている図が浮かびませんか? 落ち葉を踏んでくりを拾う子供たちの、あどけなく賑やかな光景を詠んだ歌に変わりますよね。
繰り返しになりますが、冒頭に配す一語はとても重要です。その歌でなにを伝えたいのか、読者にどんな印象を持ってほしいのか。それに合わせた選りすぐりの一語を、冒頭に持ってくるよう意識してみましょう。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
最初の一語にこだわってみる!

・・・・・・・・・・

作歌のこころみ*読者投稿作品

今回は2首ほど、読者の方からお寄せいただいた短歌をご紹介します。

□作歌のこころみ④ テーマ:提灯

新盆で 
提灯買いに 店に行き 
我の好みの花柄選ぶ
(詠み人:瀬織津姫さん)

この歌はお母さまの新盆の時のことを詠んだもの。お母さまにはどの絵柄の提灯がいいかと考えて、ふと「母は花に興味がなかったな」と思い出し、自分の好きな花の柄を選んだのだとか。一緒にいただいたコメントには「花好きの私には有り難いと思った」とありましたが、変にお母さまの好みをあれこれ考えず娘の瀬織津姫さんがいいと思ったものを選んだのは、お母さまのためにもよかったのではないでしょうか。自分のために娘が選んでくれたものを嫌だと思う母親はいませんから。
そうした母と娘の思いやりや信頼感を匂わせる、せつなくも心温まる歌になっていますね。
技術的な面でアドバイスするなら、まず「買う」と「店に行く」は意味が重複してしまうので、どちらかを削除したほうがすっきりするでしょう。また「我」と漢字で表記すると強すぎてしまうので「われ」に、結句も「花柄」と「選ぶ」で漢字を続けるよりは「えらぶ」としたほうが、読後感がやさしくなります。

新盆の
提灯買うに 母よりは
われの好みの花柄えらぶ

どうでしょうか? 意味の重複していた「店に行き」を省くことで、言いそびれていた「亡き母のための」提灯を買いにいったということが説明できましたね。短歌は31文字という少ない語で表現しなければなりませんので、なるべくムダを省き、読者にどういった印象を残したいかを意識すると、いい歌になりますよ。ぜひこれからも楽しんで作歌を続けてください。

テーマ:提灯の記事はこちら

□作歌のこころみ⑧ テーマ:栗

妹と 
数を競った 栗ごはん 
同じ数だけ母は入れてた
(詠み人:うるとら凡人さん)

家族との想い出を詠んだ、とても温かい歌ですね! 幼い子供ふたりが「こっちのほうが多い!」「いや、少ない!」なんて言い合いながら、お茶碗から栗を拾い出している光景が目に浮かぶようです。特に最後の7句にお母さまの愛情が感じられ、とてもいい歌だと思います。
お送りいただいた歌は話し言葉のままで書かれていますが、少し言葉遣いを変えてみてもいいかもしれませんね。

妹と
数を競いし 栗ごはん
同じ数だけ母は入れおり

語尾を万葉風に変えてみました。それだけで、より短歌らしくなったのではないでしょうか?
口語体で詠まれた現代短歌は読みやすい反面、短歌らしさという点ではどうだろうかと感じるものも多いです。好みの問題もありますが、コラムや小説ではなく、わざわざ短歌という形式を選ぶのですから、ほかのものと違った書き方を追求するのもいいのではないかとわたしは考えています。うるとら凡人さんは今年から歌づくりを始められたとのこと。いろいろ試して、ぜひ自分ならではのスタイルを見つけ出してください。より一層歌づくりが楽しくなると思いますよ!

テーマ:栗の記事はこちら

あなたの短歌をご寄稿ください!ー『作歌のこころみ』

『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)

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※掲載をご許可くださったかたの短歌は『週末歌仙』でご紹介することがあります。
(すべての作品の掲載をお約束するわけではありません。)
※ご応募いただいたかたにこちらからご連絡差し上げることはありません。
 また、応募作品の著作権は応募者に帰属しています。『週末歌仙』でご紹介する以外に使用することはありません。

ちょっとやってみようかな、と思ったかた、ぜひご応募お待ちしています!


短歌:楓 美生
編集:妹尾みのり

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