週末歌仙*葉ノ陸
歌を詠むということ
短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)
第一首
(想像してみてください…)
家族連れでにぎわうショッピングモール。
広場には七夕用の笹が飾られている。
脇に置かれたテーブルで、小さな子供たちが思い思いに短冊へ願いを書き込んでいるようだ。
いったいなにをお願いしているのかな?
ぶら下げられた短冊を、そっと覗いてみたら……。
ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)
短冊に
願いを託す 幼児(おさなご)の
瞳は青き星となりたり
<2001年 七夕に詠む>
<解説>
毎年この時季になると、学校や商業施設で七夕用の笹が飾られているのを目にします。
この七夕行事、実は短歌とも無関係ではないんです。
七夕は、古来日本でおこなわれていた禊の行事と、中国から伝えられた乞巧奠(きこうでん)が習合したものと考えられています。乞巧奠では裁縫の上達を願って五色の糸を飾っていました。それが後に日本の宮中行事となり、裁縫だけでなく広く芸事の上達を祈って梶の葉へ和歌をしたためて飾ったのが、短冊の起源とされています。
なので七夕の短冊には、歌の上達や芸事に関するお願いを書くのが本来なのです。でも、今はいろんなお願い事が書かれていますね。
「宇宙飛行士になりたい」とか、
「家族みんなが元気で楽しく暮らせますように」とか。
子供たちの無邪気な願い事にはほっこりさせられます。
一方で、
「お小遣いが増えますように」や、
「お金持ちになりたい」など、かなり現実的なものも見られました。
実は紹介した短歌は、七夕の短冊に書かれた子供たちの願い事を肯定的に詠んだものです。
では、後者の願いに焦点をあてて、否定的に詠んだらどうなるでしょうか?
こちらの歌は、子供の現実的に過ぎる願い事を嘆いて詠んだ歌です。
同じシチュエーションでも大きく読後感の違うことが判ると思います。
すべてのものごとは多面性を持っていますので、アプローチする局面を変えることで、同じテーマでもさまざまな短歌をつくることができるんです。
「このテーマは1回作歌しちゃったから……」などと思わずに、ぜひいろんなアプローチを試してみてください。思いも寄らない傑作が生まれるかもしれませんよ!
歌を詠んでみましょう!
テーマは……
1)七夕
2)夢
・・・・・・・・・・
第二首
(想像してみてください…)
蒸し暑い夏のある日。
久しぶりに学生時代の友人が自宅へ来訪した。
普段なかなか会うこともできないのに、こうして顔を合わせれば空白の時間がなかったかのように話が弾む。
年を重ねた今、遠慮なく話せる旧友の存在はありがたいものだ。
ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)
ひさびさに
友と語らう 水無月(みなつき)の
蒸し暑き日もさわやかなりき
<2024年、旧友に寄せて>
注1)水無月は旧暦の6月を指す。新暦では7月上旬から8月上旬のこと。ただし今では新暦6月も水無月と呼ばれている。
<解説>
心頭滅却すれば火もまた涼し、と言いますが、楽しい時間を過ごしていると人間暑さ寒さを忘れるものです。(高齢で気づきにくくなっているなんて言わないでくださいね!)
この歌も、蒸し暑さを「さわやか」と感じるくらい楽しい時間を過ごせたことを詠んだものです。
さて、ここでポイントとなるのは『水無月』という言葉。現在では6月の和名として使われています。
では、「友と語らう 六月の」でもよかったのではないか?
確かに、字数も同じだし、時期がはっきりしていいかもしれません。
でも『水無月』の「水」という漢字があることで、より「さわやか」に感じませんか?
和歌は本来、耳で聞いて楽しむものです。でも今は、こうして文字としてひとびとに届ける機会も多いですよね。だとしたら、どの漢字を使うのか、ひらがなにするのかカタカナにするのか。目で見たときにどんな印象で映るのかに気を配るのも、新しい作歌の楽しみ方なのではないでしょうか?
歌を詠んでみましょう!
テーマは……
1)旧友
2)暑い夏
・・・・・・・・・・
『作歌のこころみ』新設!
『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)
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短歌:楓 美生
はがき絵:ともこ
編集:妹尾みのり
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