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誰もがレールの上にいる『ラストマイル』感想

「アンナチュラル」、「MUI404」と繋がるシェアード・ユニバース・ムービーと聞いて、何それすごく楽しみ!な気持ちでほいほい観に行ったんですが、想像以上に心に訴えかけられる作品でした。

 鑑賞後、ぐるぐると考えを巡らせてしまうので整理としてここで吐き出しておきます。(ネタばれ含むので注意。)

「誰もがレールの上にいる」

①システムを維持するために、誰かが犠牲になる

登場人物の中には、仕事を通して何かしらのメンタルヘルスのトラブルを抱えたり、最悪身近な人が過労死した過去をもっている。
舟渡は過去に睡眠障害を患い、梨本は以前の職場がブラック企業、佐野親子は身近な人物が過労死している。そして、事件のきっかけである山崎は、かつてDAILYFAST社の関東センターで働いていており、過酷な職場環境に心が壊れてしまう。
 
では、現在の関東センターでの職場環境はどのようなものなのか。センター長に着任した舟渡は、配送物に爆弾がまぎれるという大きなトラブルに対応することになる。失敗の許されない状況で戦い続けることが求められ、常に不測の事態にも対応し続けなければならない。コンベアの稼働率は常に70%以上を維持するように求められ、すべてが「利益」「損失」を指標に評価され続けている。
 
自社の扱う商品に爆弾が紛れ込んでいたことが分かっても、コンベアの稼働は止められない。そんなことをすれば、会社は大損害、商品は届けられず困る人や人命に関わる事態にもなり得る。
 
だからこそ舟渡は、センター長としての仕事を果たすため動いていくのだが、その負担は運送会社や配送ドライバー等にしわ寄せがいってしまう。

仕事を全うしようとすればするほど、それで精神を病むこともあり、誰かを追いつめてしまいもする。だからといって仕事を投げ出すこともできない。
ここがとてもジレンマというか、落としどころが難しいというか。

ただ、登場人物たちは最後まで自分の仕事に対して責任をもってやり切ったのは確かだと言える。そうでなければ、犯人を突き止めることも、最後の爆弾から松本家を守ることも、DAILYFAST社へのドライバー賃上げ交渉にこぎつけることも出来なかった。

②私たちの「欲望」を維持するためのシステムでもある

DAILYFAST社の商品は、医療機関で使用する用品や薬なども取り扱っている。届かなくなれば人命に関わる商品だ。ただ、物流で取り扱う商品全てが必要不可欠なものとは限らない。
映画の中で舟渡が言った「私たちは、お客様の「欲望」を叶えている」(ニュアンスうろ覚え…ごめんなさい)は、消費行動を表すのに的確な表現だ。

私たちは自分の望みを叶えるためにあらゆるサービスを利用している。より便利で安くて自分にとって都合の良いものを選びがちで、それがさらに良いものに更新されることも期待している。

映画にも登場するブラックフライデーは、消費者の購買意欲を促すのにうってつけのイベントだ。あらゆる商品がセール品になり普段買わないようなものを買ってみようかなと思わせる。

ただその裏には、あらゆる「誰か」が働いている上で成り立っていることを忘れがちになってしまう。便利で豊かな社会というシステムの中で、自分が壊れる可能性も、そして誰かを壊すことにも加担していることも忘れないようにしたい。
 
最後、舟渡が関東センター長を退任し、代わりに梨本が就任、五十嵐も関東センターで働くことになり物語が終わる。登場人物たちを通して、私たちが生きる社会はこんな問題を抱えてるんだよ。あなたはどう向き合いますかと問いかけられてるように思えた。

おわり

まだうまく言語化できていない所がたくさんあります…。
物語の中で完結せずに社会のことを考える余白がある所が味わい深い作品でした。(アンナチュラルやMUI404でも通じるところ。)




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