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どんな生き方も肯定してくれるよしながふみの世界〜西洋骨董洋菓子店〜


「大奥」と「きのう何食べた」の原作は漫画家よしながふみさんです。同クールに同じ作家の原作がドラマ化されるというのは非常に珍しいことです。このふたつのドラマにハマった方に、ぜひ読んでほしいよしなが作品があります。
西洋骨董洋菓子店

よしなが作品に一貫している姿勢に私は惚れています。
それは、どんな生き方も肯定してくれること。
それを強く感じるのが、西洋骨董洋菓子店なのです。



▶️西洋骨董洋菓子店ラストの衝撃

よしなが作品とのファーストコンタクトは「西洋骨董洋菓子店」でしたが、これが本当に素晴らしく、衝撃を受けました。
何が素晴らしかったかというと最終話、物語の終わらせ方!
あの最終話で一気に惚れました!!

と、興奮だけをぶつけても伝わらないとは思うのですが、いかんせん大きなネタバレになってしまう部分なので、詳しくは書けな〜い。
まずは、コミックスを読んでほしい!

主要な登場人物
橘圭一郎(32)…主人公。ある目的のために会社を辞めて全く好きでもないケーキ(洋菓子)の店を開く。お店の名は「アンティーク」。実は財閥御曹司で、小学生の時に誘拐事件に巻き込まれる。
小野裕介(32)…アンティークで働く天才パティシエにして魔性のゲイ。高校時代に橘に告白して、それはもう令和ではコンプラNGになりそうな、こっぴどいふられ方をする。母親の不倫現場を目撃して以来、女性が苦手。
神田エイジ(22)…チャンピオンボクサーだったが、網膜剥離のためにボクシングを断念。超甘党だった縁で、アンティークに飛び込み小野の弟子となる。”リング上のジャニーズ”の異名あり。
小早川千影(34)…橘のお目付け役でありながら、ほぼ橘にお世話されている。アンティークで接客をするも、超不器用。魔性のゲイに惚れられているが、本人は気付かない天然純粋イケメンサングラス。

イケメン4人がアンティークな調度のお店で美麗な菓子を売る
ほら、もうこれだけで読んでみたくなる魔法!

小野の作るキラキラした美しい洋菓子とともに、それを買いにくる客の人生を優しく見守るようなストーリー展開は、「何食べ」にも通じます。
アンティークの客や従業員の抱える大小の傷を横糸とするならば、縦糸は橘の過去の誘拐事件。

以下、ちょっとネタバレなので、未読の方は「西洋骨董洋菓子店」を読んだ上で、是非戻ってきていただきたい!

橘圭一郎ビジュアル



▶️登場人物のトラウマをどう扱ったか

私がこの作品を秀逸だと思うのは、トラウマの扱い方です。
多くは語れませんが、この物語、
橘のトラウマの根源となる部分が解決する…すんでのところで、読者の期待と別方向に舵が切られます。
うええええええぇぇぇぇ!?
ここで終わる?マジ!?

初見、びっくらこくと思います。

解決しそうなことを知っているのは、メタ視点の読者だけ。
物語の中の人たちはそのことを知りえません。
悶えますよ、一瞬。
うおおおおおおお!教えてやりてーーって!笑

でも、物語の彼らには、そんな安直な解決は必要なさそうなのです。
大きなトラウマではあるけれど、そこが解消しなくても、決して不幸ではなさそう。
なぜなら、彼らは変化しているから。
(ベタにいえば成長)

トラウマを異物としていたところから、自身の一部と受け入れる。
そんな今を肯定しながら生きていると、"それ"はゆっくりと溶かされる。
溶けていくうちに、自分と”それ”は、分けることができないくらいにひとつになる。
やがて、"それ”は異物ではなくなる。

つまづきの原因が取り払われないと、幸せになれないわけでは決してなく。
クリアな答えがなくても、
人は生きていくし、幸せにもなれる。

そんなメッセージを受け取った気がして、なんつ〜〜〜〜〜大人な終わり方なんだ!と感動しました。

物語として考えると、最終回まで引っ張り、読者の中で溜まりに溜まったフラストレーションは解消してこそのカタルシス。
なのに、ラストまで緻密に積み上げてきたにもかかわらず、あえて定石通りを選ばないことの説得力。
逆に気持ちいい。

物事の答えがクリアなららばスッキリするけれど、実際私たちが手にするのは圧倒的に曖昧な答え。
でも、その曖昧さを抱えながら、結構いい生き方ができちゃったりもすると思うのです。
考え方ひとつで。

趣の異なる4人のイケメンが美麗な洋菓子を、おしゃれなテーブルウエアや調度のお店で提供してくれるというどファンタジーの世界を作りながら、そこに住む人の物語は現実的で地に足のついている。まさに「よしながふみ」作品だなと思います。


▶️誰だって他人の生き方を評価できない

よしなが作品を、どんな生き方も肯定してくれる姿勢と書きました。
もしかしたら、評価しない姿勢と言ったほうがいいのかもしれません。
あの人はいいとか、悪いとか。
登場人物の生き方がどんなものであったとしても、評価する描き方はしていない気がするので。

あくまで、ひとりの人間が、そこで息をしてご飯を食べて生活している…。
そんな誰かの人生の一瞬を切り取って見せてもらっている。
よしなが作品を読むと、いつもそう感じます。

* * *

さて、西洋骨董洋菓子店。
2001年にドラマ化されているのですが、配役が絶妙でドラマ版も好きでした。
ドラマの脚本は岡田惠和さん。
そういえば、岡田惠和オリジナル脚本にも共通した人間観があると思う。

キャスト
橘→椎名桔平
小野→藤木直人(ゲイ設定は曖昧になってた…そいう時代ね)
エイジ→滝沢秀明
千影→阿部寛

アニメ化もしていますが、これを書くにあたり調べたら、アニメの前にドラマCDがあって、CVが山寺宏一、郷田ほづみ、関智一、井上和彦…って。
渋すぎるぜ…その布陣!笑

* * *

「何食べ」や「大奥」でよしながふみ作品に興味を持った方。
是非とも、よしながふみ基本のキとして「西洋骨董洋菓子店」を読んでみていただきたいです。

あるあるですが…
この記事書いたら美麗なおケーキを食べたくなりました…。


千影とエイジ ビジュアル

小野裕介ビジュアル

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